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【図工でつながる社会】いつもの学校が“表現の宝物”に変わる、1人1台端末で育てる「形や色などと豊かに関わる力」

 「図工でつながる社会」は、図画工作を専門とする小学校教諭 八嶋孝幸氏による寄稿。今回のテーマは、「いつもの学校が“表現の宝物”に変わる、1人1台端末で育てる『形や色などと豊かに関わる力』」。

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アプリ(筆者自作)使用のようす
  • アプリ(筆者自作)使用のようす
  • 作品動画のスクリーンショット
  • 作品例
  • 二次元コードを入れた掲示物の例(※現在はリンク切れ)

 教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。

 「図工でつながる社会」は、図画工作を専門とする小学校教諭 八嶋孝幸氏による寄稿。教育者、研究者、アーティストという3つの視点から、造形教育の可能性を探究している。身近な社会に存在する形や色、デザインに込められた意味や価値に目を向け、子供たちが社会とつながりながら学ぶ造形教育の実践を紹介する。

 今回のテーマは、「いつもの学校が“表現の宝物”に変わる、1人1台端末で育てる『形や色などと豊かに関わる力』」。


 青森県にある国立大学法人の附属小学校で勤めている八嶋孝幸です。教職20年目で、図画工作を専門としています。教育を通して、子供たちが地域や社会と豊かに関わりながら、自ら未来を切り拓く力を身に付けられることを目指しています。

いつもの学校が“表現の宝物”に変わる
1人1台端末で育てる「形や色などと豊かに関わる力」

 GIGAスクール構想によって、小学校では1人1台端末の活用が日常的になってきました。いろいろな教科において、写真を撮る、作品を記録する、友達と共有する、振り返りに活用するなど、ICTを使った学習が広がっています。しかし大切なのは、タブレット端末を使うこと自体ではありません。私が専門とする図画工作では、その本質である、形や色、材料、場所、作品などと豊かに関わり、自分なりの見方や感じ方を広げていくことに、ICTをどう生かすかが重要です。

 今回ご紹介する実践では、1人1台端末を単なる便利な道具としてではなく、子供たちの発想や表現を広げるための手段として活用しました。特に重視したのは、「ICTを活用しなければできない表現」です。普段見慣れている教室や校舎、身の回りの材料、自然物などを、タブレット端末を通して見直すことで、新しい発見や表現につなげることを目指しました。

図工におけるICT活用のポイント

 図工におけるICT活用は、大きく2つに分けられます。

 一方は、写真や動画で活動を記録したり、作品を共有したりすることで、学習を効率的・効果的にする活用です。

 もう一方は、写真を加工する、動きを加える、デジタル上で何度も試す、二次元コードで展示するなど、ICTでなければ実現できない表現を生み出す活用です。

 どちらも大切ですが、私が研究しているのは、後者の活用をいかに図工の学びに取り入れるかということです。ICTでなければ実現できない表現をすることを通して、日常の中で見過ごされがちな形や色に気付き、そのよさや面白さ、美しさなどを感じ取り、新たな意味や価値を見出していく姿を、図工で育てたい資質・能力として捉えています。

【実践1】マジカルデジタル万華鏡:身近な材料が美しい模様に変わる

 最初に紹介するのは、「マジカルデジタル万華鏡」です。児童は、図工室や教室にある文房具、紙、道具、校庭の葉っぱや石などをタブレットで撮影し、アプリ上で回転させます。その映像を、ミラーペーパーで作ったあわせ鏡を通して見ることで、万華鏡のような表現を生み出しました。

 この活動の魅力は、特別な材料を使わなくても、見方や組みあわせを変えることで新しい美しさが現れる点にあります。普段は何気なく見ているものが、画面の中で回転し、鏡の効果によって思いがけない模様に変化します。子供たちは「これを使ったらどう見えるだろう」「もっときれいにするにはどう並べたら良いだろう」と考えながら、何度も試していました。

 ICTの強みは、やり直しがしやすいことです。この実践では、児童が平均で15回以上、作り変える姿が見られました。動画撮影をし直したり、材料の組みあわせを変えたりしながら、自分の納得のいく表現を追求していたのです。

 完成した作品動画はクラウド上で共有し、互いに鑑賞しました。友達の作品を見ることで、「この色の組み合わせが面白い」「こんな材料も使えるのか」といった新たな気付きが生まれました。授業後には、「身の回りのものの形や色がもっと面白く感じられた」「もっといろいろな材料を試してみたい」といった感想も見られました。

アプリ(筆者自作)使用のようす
作品動画のスクリーンショット

【実践2】ここにいるよ 学校見守りマスコット:いつもの学校を新しい目で見る

 続いて紹介するのは、「ここにいるよ 学校見守りマスコット」です。児童はタブレットを持って校内を歩き、気になる場所やものを撮影しました。そして、その場所にいそうなマスコットを考え、絵に表し、さらにアニメーションとして動かしました。

 この題材では、学校そのものが表現の材料になります。教室、廊下、図書室、階段、校庭など、普段生活している場所を改めて見つめ直し、「ここにはどんなマスコットがいたら楽しいだろう」「この場所を見守っているとしたら、どんな性格だろう」と想像を広げていきました。マスコットの製作では、単にキャラクターをつくるのではなく、場所やもののイメージや特徴から発想することを大切にしました。たとえば、図書室なら本を見守るマスコット、階段なら安全を守るマスコットなど、場所の意味や雰囲気と結び付けながら表現が生まれていきます。さらに、Canvaというアプリを使ってマスコットに動きを加えました。背景を取り除いたマスコットの画像を、撮影した学校の写真と組み合わせ、アニメーションとして表現します。子供たちは、「どんな動きなら、このマスコットらしいか」を考えながら、動き方を工夫していました。

 完成した作品はクラウド上に保存し、二次元コードを作成して、マスコットがいそうな場所の近くに掲示しました。鑑賞する児童がタブレットで二次元コードを読み取ると、その場所に対応した動くマスコットが画面に表示されます。実際の場所とデジタル作品が重なることで、まるでマスコットがそこに存在しているような鑑賞体験が生まれました。

作品例
二次元コードを入れた掲示物の例(※現在はリンク切れ)

子供たちの振り返りに表れた変化

 授業後のポートフォリオには、「学校にはいろいろな面白い形や色があることがわかった」「身の回りのものがマスコットに見えてくるようになった」「もっと身の回りから面白いものを見つけたい」といった記述が見られました。これらの言葉から、子供たちが作品づくりを楽しんだだけではなく、身近な環境を見る目を変化させていることがわかります。これまで気にしていなかった場所やものに目を向け、形や色の面白さに気付き、自分の生活と図工の学びを結び付けていたのです。振り返りの文章を用いてテキストマイニングをした結果でも、「マスコット」「身の回り」「工夫」「作品」「アイデア」「面白い」「楽しい」などの言葉が多く見られました。これは、児童が身近なものをもとに発想し、工夫しながら表現することに価値を感じていたことを示しています。

図工×ICT活用で見えた成果

 今回の実践から、図工におけるICT活用には、次のような成果があると考えられます。

 まずあげられるのは、身近な形や色への気付きが深まることです。タブレットで撮影したり、加工したり、動かしたりすることで、普段見過ごしているものをじっくり見るようになります。

 また、試行錯誤が生まれやすいことです。ICTは撮り直しや修正がしやすいため、児童は失敗を恐れずに何度も試すことができます。その過程で、自分の表したいことをより明確にしていきます。

 さらに、友達との共有によって見方が広がることです。クラウド上で作品を共有することで、自分とは異なる発想や表現に触れることができます。鑑賞活動が深まり、自分の作品を見直すきっかけにもなります。

 最後に、図工の学びが生活や学校環境とつながることです。身近な材料や学校の場所を題材にすることで、教室内だけで完結しない学びが生まれます。これは、生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる力を育てるうえで、大きな意味をもちます。

今後の課題と展望

 一方で、ICT活用には今後の課題もあります。プログラミング的な要素を生かした表現活動をどのように取り入れるか、カリキュラム全体の中でICT活用をどのように位置付けるか、発達段階に応じてどのような題材が適切かといった点については、さらに検討が必要です。ICTは、使えば必ず学びが深まるものではありません。大切なのは、子供の見方や感じ方を広げる活動になっているか、身近な生活や社会と結び付いているか、そしてICTだからこそ可能になる表現があるかを見極めることです。

子供の「見る目」を育てるICT活用の可能性

 図工におけるICT活用の本質は、デジタル機器を使いこなすことではありません。子供たちが身の回りの形や色に気付き、その良さや面白さを感じ取り、自分なりの意味や価値を見出していくことにあります。

 1人1台端末は、そのための有効な道具です。写真を撮る、動かす、組み合わせる、共有する、展示するという活動を通して、子供たちは日常の中にある造形的な魅力を再発見します。

 「いつもの教室」「いつもの学校」「いつもの身の回りのもの」が、子供たちの表現によって新しい意味をもつ。そこに、これからの図画工作科におけるICT活用の大きな可能性があります。

《八嶋孝幸》

八嶋孝幸

 弘前大学教育学部附属小学校主幹教諭。2025年度(令和7年度)文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。教科書編集委員。教育者、研究者、アーティストの3足のわらじを履いて活動中。教育研究で第23回ちゅうでん教育大賞教育奨励賞、第41回東書教育賞入選等受賞。マイクロソフト認定教育イノベーターエキスパート、ミライシードDXエデュケーター等認定。アーティストとしても日本板画院新人賞、石井頼子賞等受賞多数。

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