文部科学省が2018年に公表したデータによると、2008年~2018年の10年間で日本語指導が必要な児童生徒は、3万3,470人から5万1,126人へと、およそ1.5倍増となっている。さらに、2019年に改正された出入国管理法により、今後は外国人居住者が増え、今まで以上に言語的、文化的、宗教的なグローバル化が進み、児童のニーズもさらに多様になることが想定される。
このような中で、異文化理解や多文化共生を促進するインクルーシブな教育環境を保障することが求められているが、これまでは外国人児童生徒の言語的な課題や日本語指導に焦点をあてたものが中心で、外国人児童生徒を含めたすべての児童生徒が共に学ぶインクルーシブ教育は少ない傾向となっていた。
そこで、筑波大学は、体育授業は子供同士の関わりが多く、とりわけ相互理解等の社会的態度の育成についての有効性が示唆されていることから、体育科教育に着目。日本の公立小学校教師が日本語学習者である外国人児童を含むクラスの体育指導を行う際の工夫や課題について明らかにすることを目的とした研究調査を行った。
調査は2019年7月~9月、公立小学校教師7名(女性2名・男性5名・教師歴3~19年)を対象に、基本属性アンケートおよび体育指導における具体的な活動についてオンラインインタビュー形式で実施した。その結果、共通した工夫が3点見つかった。
1つ目は、学級担任制を生かし、他教科の授業中や休み時間の観察から、外国人児童の日本語能力や社交性、発達段階等を評価し、それを踏まえて体育の授業づくりを工夫しているという点。たとえば、写真や動画、ジェスチャーや動作の模倣を取り入れる等、言語の壁を低減し、外国人児童が参加しやすい工夫等。
2つ目は、保護者との連携。体育に特有の必要物品(赤白帽子や体操着等)の必要性を伝えたり、宗教上の理由から授業に参加できない、日本語能力が追いつかず授業が理解できない、といった場合には、学習状況について対話を重ねる等、さまざまな翻訳ツールも駆使して、保護者との積極的なコミュニケーションが図られていた。
3つ目は、外国人児童の文化的背景に配慮した指導の必要性が認識されているという点。体育授業では、言語的な課題に加え、文化的な価値観の違いや宗教的なバックグラウンドの違いが顕著に出やすいことから、たとえば宗教上ピアスが外せない児童は、マット運動や水泳の授業は衛生安全上、参加させることができなかったり、接触の多いスポーツにおいても配慮がされていた。また、振る舞いや習慣の違いに気づくことができずに、外国人児童に日本人らしさを求めてしまう危険性も指摘された。
調査対象となった教師は、普段から外国人児童のニーズに配慮した指導工夫を検討しており、こういった工夫が学習理解のサポートになるだけではなく、学習障害や知的障害のある児童を含むすべての児童にとってのインクルーシブな学習環境づくりにつながっていることが示唆された。
筑波大学の研究チームでは、日本の学校文化において、どのような体育指導が求められているのかを明らかにするべく、さらに研究を進めており、今後、外国人児童の文化的背景に対応した体育の指導法、および教員の資質能力の向上のための教育プログラムの開発を目指す。このような研究の蓄積は、多様化する児童のニーズを踏まえた教科等横断的な指導に役立つだけでなく、すべての児童にとっての異文化理解力向上や、グローバル人材の育成にも寄与するものと考えられるとしている。
研究成果は、6月12日付で「Public elementary school teachersʼ positioning in teaching physical education to Japanese language learners(公立小学校教師の日本語学習者である外国人児童を体育指導した際のポジショニング)」と題して、学術誌「European Physical Education Review」に掲載している。