教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。
「明日使える指導術」は、小学校・中学校で約10年の教員経験をもつ現役中学校教諭 阪野一輝氏による寄稿。教室で子供たちと向きあう中で試行錯誤を重ねてきた「褒める」「叱る」といった日々の関わりに焦点を当て、その実践知をもとに、子供たちが自ら考え動き出すためのヒントを提示する。
今回のテーマは、「アンガーマネジメントで見つける『自分だけの対処法』」。
感情のコントロールも、勉強やゲームと同じ「スキル」
学校生活の中で「小さなことでイライラしてしまう」「感情を抑えきれずに爆発してしまう」という子供に出会うことはないでしょうか。
私がこれまでに受けもったクラスにも、イライラすると机を叩いてしまったり、泣き出して会話にならなくなったりして、感情のコントロールができずに苦しんでいる子供がいました。
「感情のコントロール」と聞くと、生まれもった性格や精神論のように捉えられがちです。しかし、勉強に解き方やコツがあり、子供たちが大好きなゲームに攻略法があるように、感情のコントロールにも「やり方」があります。 そして、それは練習を重ねることで少しずつ身に付けていくことのできる「スキル」なのです。
ただ、感情の表れ方やコントロールのしやすさには個人差があるため、苦手な子を「成長すれば自然とできるようになるだろう」と放っておいても、勝手に身に付くものではありません。大切なのは、大人が「自分の感情と上手に付きあう方法」を子供たちに伝え、一緒に練習する機会をつくることです。
「6秒待つ」だけではおさまらない理由
怒りとうまく付き合う方法として、アンガーマネジメントがあります。その基本的な知識として、よく知られているのが「6秒ルール」です。
「怒りのピークは6秒。だから、まずは6秒待とう」と聞いたことがある方も多いでしょう。ただし、ここで大切なのは、「6秒待てば怒りが消える」という意味ではないということです。6秒待つのは、怒りに任せて反射的に言葉を返したり、行動したりすることを避け、少し冷静になって次の行動を選ぶための時間です。
実際に教室で指導していると、「6秒数えても、なかなか気持ちがおさまらない」という場面があります。それは、怒りの感じ方や、その怒りが生まれる背景が、ひとりひとり異なるからです。同じ出来事でも、すぐに気持ちを切り替えられる子もいれば、なかなか気持ちを落ち着けられない子もいます。
そこで、「6秒待つ」という1つの方法だけに頼るのではなく、自分にあったさまざまな対処法を知っておくことが大切になります。ある子には効果があった方法が、別の子にも同じように効くとは限りません。
だからこそ、「自分にはどんな方法が合うのか」を知り、使える方法を1つでも多くもっておくことが、怒りと上手に付きあうための力になるのではないでしょうか。
ゲーム感覚で選ぶ自分だけの技
では、どうすれば「自分にあった方法」を見つけることができるのでしょうか。
私は、子供の心が落ち着いているときに、一緒に「イライラしたとき、どうすると良いか」を考えるようにしています。その際、怒りをモンスターに例え、「怒りのモンスターを倒すための『技』を、自分で選んでみよう」とゲームのように提示すると、「怒らないようにしなさい」と言われるよりも、子供たちは自分にできそうな方法を考えやすくなります。

ここで大切なのは、教師が「この方法が正解」と決めないことです。
「これなら自分にもできそう」
そう思えるものを、子供自身が選びます。そして、実際に使ってみます。
もちろん、選んだ技が毎回うまくいくとは限りません。そんなときも、失敗を責める必要はありません。
「この技は、今回のモンスターには効かなかったね。次はどの技を試してみようか?」
と、一緒に次の作戦を考えます。
アンガーマネジメントは、知識を1度教えれば身に付くものではなく、実際に試しながら少しずつ身に付けていくものです。だからこそ大切なのは、試行錯誤しながら「自分にはこの方法が合う」とわかっていくことなのではないでしょうか。


「心のコップ」にゆとりをつくる日頃の関わり
怒ったその瞬間の対処法と同じくらい大切なのが、日頃から「心にゆとりをつくっておくこと」です。
人の心を「コップ」に例えてみましょう。時間に追われて焦っていたり、不安やストレスがたまっていたりすると、コップの中にはすでにたくさんの水が入っています。そこに、ほんの少しの刺激が加わる。すると、わずかな「イライラ」であっても、水があふれ出してしまいます。
つまり、怒りが大きくなってから対処するだけではなく、普段からコップの中の水を減らしておくことも必要なのです。
たとえば、
「次に何をすれば良いか分かるようにしておく」
「困ったときに相談できる相手をつくっておく」
「失敗しても大丈夫と思える学級の雰囲気をつくる」
といったことも、子供の心のゆとりにつながります。
そして、これは子供だけの話ではありません。
日々、多忙な私たち教員も同じです。「こうであるべき」「こうしなければならない」という思いが強くなりすぎると、自分自身の心のコップも、いつの間にかいっぱいになってしまいます。「まあ、いいか」「まだ大丈夫」と思える心のしなやかさを、大人自身も少しずつ育てていきたいものです。

自分らしい整え方を育む伴走者に
感情をコントロールする力は、子供たちがこれから生きていくうえで長く役に立つ大切なスキルです。だからといって、最初から完璧に使いこなせる必要はありません。
イライラして、うまくいかなくて、また別の「技」を試してみる。そうして試行錯誤を重ねるうちに、「自分にはこの方法がしっくりくる」というコツが少しずつ掴めていきます。この小さな経験の積み重ねこそが、自分の感情と上手に付き合い、自分で自分を整える力を育んでいきます。
私たち大人の役割は、「怒らない子」にすることではありません。怒りやイライラを感じたときに、自分で心を整える方法を「一緒に探すこと」。そして、うまくいかないときには「次はどの技を試してみようか」と、何度でも挑戦できる安心感と支えを提供することです。
まずは明日、イライラして困っている子を見かけたら、
「どの技なら使えそうかな?」
と、一緒に作戦を立てるような気持ちで声をかけてみませんか。











