教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。
「明日使える指導術」は、小学校・中学校で約10年の教員経験をもつ現役中学校教諭 阪野一輝氏にによる寄稿。教室で子供たちと向きあう中で試行錯誤を重ねてきた「褒める」「叱る」といった日々の関わりに焦点を当て、その実践知をもとに、子供たちが自ら考え動き出すためのヒントを提示する。
今回のテーマは、「子供の未来を守る叱る技術、優しさと甘さを分ける5つのアプローチ」。
「子供たちに嫌われたくないから、強く言えない」
「厳しく指導したつもりなのに、教室の空気が重くなるだけで、子供たちには何も伝わっていない気がする」
そんな経験はないでしょうか。自身、若手教師だった頃、まさに同じ悩みを抱えていました。厳しくしたら関係が壊れてしまうのではないかという不安から、注意すべき場面でも見過ごしてしまうことがありました。
今振り返ると、あれは子供への「優しさ」ではなく、自分が傷つくことを避けようとした「甘さ」だったのだと思います。
近年、学校現場では「叱ること」に慎重になる風潮が広がっています。子供の人権を尊重し、ひとりひとりを大切にすることは、教育において欠かせない視点です。しかし、その一方で、「叱ってはいけない」と受け止められ、本来伝えるべきことまでためらってしまう場面も少なくありません。子供の健やかな成長を願うなら、間違った行動を見過ごすことは、本当の優しさと言えるのでしょうか。
大切なのは、「叱るか、叱らないか」ではなく、「どう叱るか」です。
前回は、子供の自己肯定感を育む「褒める技術」についてお伝えしました。褒めることが子供の挑戦を後押しするように、叱ることもまた、子供をより良い方向へ導き、安心して学べる教室をつくるために欠かせない教師の技術なのです。そこで今回は、明日から実践できる「叱る技術」の5つのアプローチをご紹介します。
「優しさ」と「甘さ」を区別する…ブレない一貫性をもつ
子供が望ましくない行動をしたとき、「今日は良いか」と見過ごしてしまうことがあります。しかし、それは優しさではありません。ルールが曖昧になることで、子供たちは「何が良くて、何がいけないのか」が分からなくなり、不安を感じるようになります。
子供たちが安心して生活できる教室には、「ここまでは大丈夫」「ここから先はダメ」という境界線が明確にあります。たとえば、道路には「左側通行」というルールがあります。もし「今日は右側を走ってもいいよ」と日によってルールが変われば、大きな事故につながってしまいます。
学校も同じです。教師の気分によって指導が変わる教室では、子供たちは安心して生活することができません。だからこそ、教師自身が一貫した基準をもち続けることが大切です。
・その日の気分でルールを変えない
・疲れているから見逃したり、機嫌が悪いから必要以上に厳しくしたりしない
・相手によって態度を変えない
・手がかかる子も、普段から頑張っている子も、「ダメなことはダメ」と同じ基準で伝える
「この先生は、誰に対しても同じ基準で接してくれる」
この安心感こそが、教師への信頼につながっていきます。これは学校だけではありません。家庭での子育てにおいても、子供が安心して育つための大切な土台になるのではないでしょうか。
人格ではなく「行為」を叱る…否定するのは行動だけ
叱られた子供が「自分はダメな人間なんだ」と受け止めてしまうと、その後の指導は届きにくくなります。たとえば、
「なんであなたはいつもそうなの?」
「やる気がないならやめなさい」
「本当にダメだね」
こうした言葉は、行動ではなく子供の存在そのものを否定されたように受け取られてしまうことがあります。叱るときに大切なのは、「人格」と「行為」を切り離すことです。否定するのは、その子自身ではなく、「今、その瞬間の行動」です。たとえば、
「今、友達を小突いてしまった、その行動が良くなかったんだよね」
このように伝えることで、子供は「自分は受け入れてもらえている。そのうえで行動を変えれば良いんだ」と受け止めることができます。人格を守りながら行動を正す。それが、子供の自己肯定感を傷つけずに成長を促す叱り方です。
理由を聴き、次の行動を一緒に考える
子供が望ましくない行動をしたとき、大切なのは、その行動だけを見て終わることではありません。「どうしてそんなことをしたか」、その行動に至った理由を丁寧に聴き、背景を理解しようとすることです。子供の行動の裏には、悔しさや悲しさ、不安、焦りなど、さまざまな思いが隠れていることがあります。子供の思いを置き去りにしたままでは、本当の原因は見えてきません。だからこそ、その子が「どうしてそうしようと思ったのか」という背景を理解し、そのうえで、「次に同じような場面になったら、どうすると良いか」を一緒に考えていきます。
大切なのは、教師が答えを与えることではありません。子供自身が次のより良い行動を選べるよう、対話を通して支えていくことです。
伝わる「言葉の届け方」…低く、短く、簡潔に
教室で子供を叱るとき、大きな声で長々と説教をしてしまうことはないでしょうか。しかし、大声や長い説教は、子供の心を防御モードにしてしまいます。「怒られた」という印象だけが残り、本当に伝えたかった内容は届きません。
だからこそ意識したいのが、「低く、短く、簡潔に」伝えることです。
・声のトーンは低く落ち着いて
・指導はできるだけ短く
・過去の失敗をもち出さず、今起きた出来事だけを伝える
たとえば、授業中に私語が続いた場面なら、
「今は友達の話を聞く時間だったね。最後まで聞いてから話そう」
このくらいの短さで十分です。静かで落ち着いた言葉ほど、子供の心には深く届きます。教師が感情的にならない姿は、「先生は怒っているのではなく、自分のことを考えて話してくれている」という安心感にもつながります。
叱って終わりにしない…リセットとアフターフォロー
指導は、叱った瞬間に終わるものではありません。むしろ、本当に大切なのはその後です。厳しい言葉だけで終わってしまうと、子供の心には「拒絶された」という感覚だけが残ってしまいます。
だから私は、指導の最後には必ず「あなたのことを大切に思っている」という愛メッセージを添えるようにしています。
「今回、叩いたのはいけなかったけど、〇〇くんがよく△△さんを優しく支えてあげてるの知ってるからね」
「隠さずに正直に話してくれたことは、先生嬉しかったな」
「きちんと謝れたね。その素直さはとても大切だよ。〇〇くんなら、きっと次はより良い行動を選べるよ」
そして翌日、あるいは数日後。その子が少しでも成長した姿を見つけたら、私は必ず言葉にします。
「最近ようす見てるけど、この前のこと意識できてるね」
「〇〇くん頑張っているのすごい伝わってくるよ」
叱ったことを引きずらせるのではなく、その日のうちに気持ちを切り替えられるようにし、その後の成長まで見届ける。このアフターフォローがあるからこそ、子供は「先生は自分を見捨てたのではない」と安心し、次の一歩を踏み出すことができます。
「怒る」と「叱る」は違う
最後に、私が大切にしている考え方を紹介します。それは、「怒る」と「叱る」はまったく違うということです。
「怒る」は感情をぶつけること。
「叱る」は子供の未来を願い、より良い行動へ導くこと。
私は、叱るとは子供を思いどおりに変えることではなく、子供自身がより良い行動を選べるよう支えることだと考えています。

おわりに
叱ることは、子供を支配するためでも、恐怖で従わせるためでもありません。子供の未来を信じ、「ここまでは大丈夫。でも、ここから先は違うよ」という境界線を示し、より良い行動へ導くための教師の技術です。
ですから、叱ることを恐れなくても大丈夫です。大切なのは、感情をぶつけることではなく、子供の未来を願い、その思いを技術として届けることです。
まずは明日、教室で指導が必要な場面に出会ったら、感情のボリュームを少しだけ下げてみてください。そして、「人格ではなく行為を伝えること」「子供の背景を理解し、一緒に次の行動を考えること」「叱って終わりではなく、その後の成長まで見届けること」を意識してみてください。その積み重ねが、子供との信頼関係を育み、安心して挑戦できる教室を作っていきます。
「褒めること」も、「叱ること」も、どちらも子供の可能性を信じる教師の技術です。そして、その技術が目指す先にあるのは、教師が叱り続ける教室ではありません。子供たちが互いに認めあい、自ら考え、自らより良い行動を選びあえる教室です。
最終回では、そのための「指導を仕組みに変える技術」についてお伝えします。









