教育業界ニュース

「主語は子供たち」GIGA先進自治体舞鶴市・中津市、パネルディスカッションレポート

 2023年2月8日に全国の教育委員会担当者、学校関係者を対象にオンライン開催された、公開パネルディスカッション「子どもたちの未来を創造するために~自治体で取り組んでいる教育改革~」を取材した。

イベント 教員
「主語は子供たち」GIGA先進自治体舞鶴市・中津市、パネルディスカッションレポート
  • 「主語は子供たち」GIGA先進自治体舞鶴市・中津市、パネルディスカッションレポート
  • 左から舞鶴市教育委員会 奥水氏、岡本氏、濵野氏
  • 左から中津市教育委員会  粟田氏、小野氏
  • 「主語は子供たち」GIGA先進自治体舞鶴市・中津市、パネルディスカッションレポート

 2019年12月に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」を通じ、2020年から全国の自治体で小中学校における1人1台の学習用端末が導入されてきた。多くの自治体が2025年付近を目処に端末のリプレイスの検討を始めようという段階に入りつつあるが、検討に際して重要視する点も利活用進度の差異から各自治体で異なっている状況だ。

 今回の公開パネルディスカッション「子どもたちの未来を創造するために~自治体で取り組んでいる教育改革~」は、全国の教育機関へのiPadの導入から利活用までをトータルサポートするコンサルティングチームとして2012年に結成されたSB C&S株式会社のエデュケーションICTチームが主催するもの。

 「子供たちのために授業をどう変えていくか」という本来的な視点を重視した教育改革を先進的に行う大分県中津市教育委員会、京都府舞鶴市教育委員会の教育長らをパネリストに、また、教育委員会のコンサルタントや研修等を行うDoit 代表取締役の土井敏裕氏をモデレーターにそれぞれ迎えて実施された。

パネリスト

大分県中津市教育委員会

教育長 粟田英代氏
指導主事 小野次也氏

京都府舞鶴市教育委員会

教育長 奥水孝志氏
指導担当課長 岡本恵理子氏
教育振興部長 濵野滋氏

SB C&S

エデュケーションICT統括部長 古泉学氏

モデレーター

Doit 代表取締役の土井敏裕氏

教育のあり方をバージョンアップし続ける

土井氏:今日は子供達の未来を創造するために自治体が取り組んでいる教育改革をテーマに、2つの自治体の教育長、指導主事の方々、整備担当の方々に来てもらっています。最初の質問ですが、各自治体ではそれぞれどのようなことを意識して自治体の教育目標や方針を立てられていますか。

舞鶴市教育長 奥水氏:「舞鶴の子供の幸せのために教育はある」ということが決してぶれないように進めています。

 現在の舞鶴市の教育における2つの柱は「小中一貫教育」と「GIGAスクール構想」ですが、GIGAスクール構想は授業を改革する絶好のチャンスだと思っています。新しい時代に向けた授業のかたちにどう変えていくかということを教育委員会として考え、現場の先生方と共有しながら一緒にがんばっていく必要があるのではないでしょうか。

左から舞鶴市教育委員会 奥水氏、岡本氏、濵野氏

舞鶴市教育委員会指導担当課長 岡本氏:舞鶴市では、たくさんの先生たちに協力していただいて小中9年間一貫の教育カリキュラムづくりに取り組みましたが、現場ではそれを毎日使うのは難しいという課題もありました。そんな中、新しい学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」ということが打ち出されました。これが先生方に伝わるようにと作ったのが、探究し学び続ける授業デザイン「舞ラーニング」です。これを舞鶴市のすべての先生にお配りし、取り組んできました。

 しかし、本当に授業はこれだけか、という疑問も出てきた。そんな中で今回、GIGAスクール構想が始まりました。あくまでタブレットというものは手段として使うもので、いちばん変えたいものは先生たちの授業に対する考え。そこで、ここにもいらっしゃるSB C&S 古泉様や土井先生に入っていただいて、先生たちのマインドチェンジを目指して「授業づくりリーダー研修」に取り組みました。

土井氏:ありがとうございます。次に、中津市 粟田教育長から教育目標やビジョンについてお話しください。

中津市教育長 粟田氏:教育目標に掲げているのは、「自立する力を育て、社会で活躍できる人材の育成」です。目標達成のために示している子供の3つの姿のうち、1つ目である「主体的に学ぶ子供」を育成するためには、授業を変えなければなりません。「先生が教える授業ではなく、子供たちが学ぶ授業へ」が中津市の合言葉。先生方も主体的に自身のスキルを上げて変わっていく、これがいちばん大切に考えているところです。

 2つ目は、「基礎的な知識・技能の確実な獲得」。社会変化に伴い必要不可欠な情報活用能力をいかに子供たちにしっかり身につけてもらい、義務教育を卒業させていくか。3つ目は、「ふるさと中津への誇りをもち、学びを社会に生かす子供」を育てること。「グローバルに考えてローカルに行動できる」人材がさまざまな分野で求められています。

左から中津市教育委員会 粟田氏、小野氏

中津市教育委員会指導主事 小野氏:中津市では、以前から「ひとりひとりを大切にする教育」を目指してきました。その実現のために取り組んでいるのが「みんな活躍授業」。4つのポイントは、学びあうための土台づくりである「見通しをもつ」「課題解決のためにキーワードを用いる」「全員が表現する」「みんなで考察する」です。

土井氏:舞鶴市と中津市のどちらのプランも、おそらくGIGAスクール構想が始まる前に立てられたものだと思います。実際にGIGAスクール構想が始まって数年が経ちますが、作っていたものと今現状起きているところとの相違をふまえ、バージョンアップを考えているとお聞きしました。舞鶴市の舞ラーニングでは、どのような部分を改訂しようとしていますか。

舞鶴市教育委員会 岡本氏:「授業づくりリーダー研修」で先生たちと研修していた中で、舞ラーニングをあらためて見てみると、「主体的に」と子供たちに言いながら、「~させる」「~に気づかせる」という教師目線が大半だったと気づき、反省しました。子供たちがいきいきと主体的に学ぶ授業に先生たちが挑戦し、子供たちが主体的にICTを使うことこそもっと取り入れたい、という目線で改訂中です。改定後はたとえば、iPad活用のポイントを明記する等、もっと子供たちを主語にするために必要なことを盛り込みました。この3月に完成し、来年度から使う予定です。

土井氏:子供目線での改訂を行っているんですね。中津市の「みんな活躍授業」という取組みも、同様に子供たちを主語にされていると思いますが、いかがですか。

中津市教育委員会 小野氏:子供たちがiPadを使いながら自由に表現したり、考えを共有したりという場面が、ほとんどすべての学校で見られるようになりました。特に「全員が表現する」という点では、GIGAスクール構想がスタートしてから大きな変化があるように感じます。

土井氏:表現方法の多様化にiPadがすごく役立っているイメージですね。それぞれ、たくさんビジョンがありながら、それを随時バージョンアップしているところが共通していると感じました。

学校間、教員間の格差をいかに解消するか

土井氏:次の質問に移ります。学校間・教育委員間・教師間で格差が生まれている状況で、具体的にどのように教育委員会で研修やサポートを行っているのかをお話しいただけますか。

舞鶴市教育委員会 岡本氏:「舞GIGAスクール推進計画」では「4WD構想」と銘打って、「授業づくりリーダー研修」「舞GIGAスクールモデル校」「iPad活用基礎研修」「情報モラル教育研修会」の4つの「W=ワクワクする学び」「D=ドアを開けよう」の推進力で進めています。

 iPadのさまざまなアプリを活用する基礎研修を4回シリーズでオンライン開催し、舞鶴市の全学校のすべての先生に受けてもらい、基礎力も上がりました。また、4校のモデル校では、アドバイザーに入っていただきながらその学校の課題に沿って実際に授業を通して取り組むことで、子供たちのiPadの活用率と先生たちの活用能力も上がりました。情報モラルについても年に2回の研修会を行っております。

中津市教育長 粟田氏:中津市では、学校間・教師間の格差について、教師の意識のズレをなくすことがいちばん重要と考えています。

 情報活用能力は未来を生きる子供たちにとって必要不可欠で、教師の得手不得手によって学びに遅れをとるようなことがあってはならない。しかし、指導力の差は当然あるので、苦手な先生にもモチベーションをもって取り組んでもらえるために、市教委がどのようなサポートのシステムを揃えていけるかが重要です。

中津市教育委員会 小野氏:中津市にも「研修・研究会」の充実、各校から推進委員に出ていただいて情報の共有・交換を行う「ICT活用教育推進委員会」、「サポート・環境整備等」、「推進校の取組み」の4つの取組みがあります。

 特に重要としているのが教員間の格差をなくす「研修・研究会」で、自分に必要だと思ったものを選んでもらえるような研修に取り組んでいます。今年は、ICTを活用した授業改革リーダーの育成も実施しており、これは「もっと活用したい」という先生方の声を意識してスタートしたものです。推進校としては、小学校1校・中学校1校で今年取り組んできました。iPadを活用する授業づくりがメインで、先生方が工夫して取り組んでいるようすがいろいろ見られて良かったな、来年につながるなと思いました。

土井氏:2つの自治体に共通しているのが、先行して授業を変えていける人たちをどう育てていくかということと、それ以外の先生方のスキルをどう上げていくかということ。そして、学校全体の推進を担うモデル校の役割がそれぞれあるということですね。

 舞鶴市の授業づくりリーダー研修では3期生の研修に入っていますが、リーダーを育成する中で先生たちがこの研修を受けて変わったなとか、授業が変わってきたなという具体的な話をしていただけますか。

舞鶴市教育委員会 岡本氏:リーダーとなる先生たちが各学校に育ってきたことで、今回初めて2期生の代表の先生に公開授業をしてもらいました。4年生理科の「ものの温まり方」の授業で、子供たちの自分の生活と学びがリンクしたときに子供たちがいきいきとして自分たちから動き出したんです。そういう姿を見ていた3期生の先生たちは、自分たちもそういう授業をしてみたいというふうに大きく変わったと思います。

 自分自身がどんな人間で、どんな良さがあり、どんな授業を子供たちとしてみたいのか、という教師発信の部分を具体的に話しあえるようになり、自分から挑戦する姿が、1期生、2期生よりもさらに高まってきたのではないかと感じています。

中津市教育委員会 小野氏:中津市では、2時間の研修では物足りないという思いをもっている先生もいて、ニーズがさまざまです。研修でそれぞれの学校が取り組んでいることを知り、また学校に戻って取り組んで、というサイクルがうまくいっている先生が多い印象です。

 先日の研修では、授業をどう変えるかということ以前に、教育課程以外の内容の授業を行ったという先生がいました。そこでもやはり、子供がいきいきとしていて、先生方も、それを教育課程の中のどこで生かせるかを考えていく。とにかくチャレンジをして、子供のいきいきとした姿、みんなが活躍している姿を目指している先生の姿というのは良いなといつも感じています。

土井氏:どちらにも共通して言えるのは、単にiPadのスキルが上がったから授業がどうなる、ということではなくて、先生の授業に対する考え方の部分に変化が起きつつあるということですね。

 リーダーの人たちが育って授業が変わっていく際に、先生間の格差を埋める工夫はありますか?

舞鶴市教育委員会 岡本氏:「先生たちの研修のようすや、つかみ取ったものを校内で発信して広めてほしい」と校長先生を通して伝えています。そういうところで学校全体の推進力が上がりますね。

中津市教育長 粟田氏:ICT利活用が得意な先生に推進会の中に入ってもらい、市教委と一緒に市全体のリーダーとして一緒に取り組んでもらっています。

 また、学校を越えて良い事例をシェアする取組みもあります。「こういう授業でこれを使ってみたら良かった」というものを市の教員全員が見られるかたちでどんどん投稿してもらうシステムを作りました。得意な先生にはとてもやりがいがありますし、苦手な先生としても、とりあえずこれやっておこうという感じで助かる、非常に人気がある取組みでした。

ネクストGIGA、予算取りに向けて

土井氏:全国の自治体では、研修をやるにせよ、環境を整備するにせよ、次年度の予算を確保するというところでいろいろな課題にとても苦労されています。予算を獲得していくためにどういうことを意識されていますか。

舞鶴市教育委員会教育振興部長 濱野氏:整備担当として、学校の先生方が何を求めているのかということをしっかり把握しないと的を外してしまいますので、現場を知ることを基本と考え、研修会に参加しています。

 私が授業を受けていた時は一斉授業でしたが、現場を見ていちばん驚いたのが、議論をしながら課題に対して向きあう授業が当たり前に行われていること。そこにICT環境を整備していくということで、授業をさらに変えていくという状況にあります。

土井氏:整備を担当する方が、学校に行き、授業を見て、必要なことを感じたりポイントを押さえたりというのはすごく大きいですね。

中津市教育委員会 小野氏:中津市では、GIGAスクールサポーターが4人いまして、学校と連携しながら、さまざまな学校のニーズにあったものを揃えたり、端末の管理をしたりと、綿密に連絡を取りながら整備を行っています。予算については、学校での活用イメージや必要なことについて日々情報共有しながら、予算獲得に向けて取組みを進めています。

土井氏:複数の課の担当者が綿密に連絡を取ったり連携を取ったりしながら進めている。そして、そこにGIGAスクールサポーターというハブがあって、その人たちの連携も予算獲得にはすごく役立っているというイメージですね。

子供の創造力を支えるiPad

土井氏:iPadを導入して良かったところは何でしょうか。

舞鶴市教育委員会 岡本氏:ものすごく感覚的に使える良さがあります。先生に教えられなくても、子供たちは自分からどんどん使っているような状況で、教室の中だけじゃなくて外にも活動の幅を広げられます。いちばん効果があると思ったのは、アウトプットのツールとして想像力豊かに使えるところです。総合的な学習の時間に、地域の人たちと連携して地元の良さを発信するという取組みでは、子供たちは地域の役に立つという充実感も味わっている。

土井氏:SB C&Sの古泉さんはいかがですか。

SB C&S エデュケーションICT統括部統括部長 古泉氏:今日のお話にもあったとおり、すべて「主語が子供たち」というところが大きなテーマです。iPadが、児童生徒にとって非常に直感的で使いやすい端末であり、それを知った先生方が変わることができるデバイスだと私は思っています。

次年度への展望

土井氏:最後の質問です。次年度、今の立場でこういうことを取り組んでみたいと思い描いていることがあれば。

中津市教育委員会 粟田氏:ひとつは、多様な子供たちの学びを広げることです。ICTは多様なひとりひとりが生きるツールで、今までの学校教育では手が十分に届いていなかったかもしれない子供たちにも、無限の可能性が広がっている。もうひとつは、総合的な学習の時間やふるさと学習等をきっかけにして、子供たちが自分の興味のある分野についてクリエイティブにどんどん活動を広げてほしいと思っています。

舞鶴市教育長 奥水氏:先生が生徒たちに感謝するような授業ができないかというのが私の夢です。この夢の実現にはGIGAスクール構想が大きな役割を担っているんじゃないかなと。子供たちに感動を与えるのが教師の仕事ですが、逆に子供たちから感動をもらえるという教師の仕事の素晴らしさがわかったら、教員を目指してくれる若者が増えるんじゃないかなと、そんなことも思っています。

土井氏:これだけ取組みをされている方々でも、まだこの先取り組みたいことがたくさんあるということがすごく頼もしいですし、一緒に夢を見たいなというふうに思いました。今日は短い時間でしたが、パネルディスカッションの中で本音を語っていただいた5名の先生方、本当にありがとうございました。

取材後記

 GIGAスクール構想開始から2年。「ICTをいかに教育に使うか」ではなく、「教育改革・授業改善のためにいかにICTを使うか」という順接に立ち戻り、子供たち、さらには教員たちが主体的に学べる環境を目指して教育改革に取り組む関係者たちの熱い想いが伝わるパネルディスカッションだった。学習用デジタル端末を利活用しながら、人とつながりいきいきと学ぶ教育現場。それぞれの夢の実現に向けた無限の可能性が広がっている。

《増田有紀》

この記事はいかがでしたか?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top