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学びあいで授業の質を高める…枚方市立第四中の「ミライシード」活用

 枚方市立第四中学校は、2019年度から1人1台端末を配備。ベネッセコーポレーションが提供する「ミライシード」を導入し、実践研究に取り組んでいる。ICTと従来の指導それぞれの良さを生かして、生徒の資質・能力を高める授業づくりを進めている同校の取組みを聞いた。

事例 ICT活用
枚方市第四中学校
  • 枚方市第四中学校
  • 年度当初の振り返り例
  • 2学期の振り返り例
  • 職員室に貼られた「授業参観交流プロジェクト」(JSKP)の計画表
  • 授業風景
  • JSKP参観シート
  • 枚方市立第四中学校 鶴島茂樹校長
  • 枚方市立第四中学校 西村英理教頭
 大阪府の枚方市立第四中学校は、2019年度から1人1台端末を配備し、実践研究に取り組んでいる。学習用ソフトとしては、タブレット学習用オールインワンソフト「ミライシード」を導入。全9教科で活用法の質疑応答を行う委員会や、全教員が授業公開・参観する仕組みを設け、教科横断でICT活用の実践を共有してきた。その結果、教員も生徒も、授業でのICT活用が定着。ICTと従来の指導それぞれの良さを生かして、生徒の資質・能力を高める授業づくりを進めている。

ICT活用の校内推進体制(1)



全9教科横断の委員会でノウハウを共有



 枚方市立第四中学校は、2019年4月には生徒1人に1台のタブレット端末を配備し、ICT活用の研究を推進してきた。2020年度に校内の通信環境が改善されると、ICT活用は一層進み、現在、全教員がほぼ毎回の授業でICTを活用している。

 同校がICT活用推進において力を入れてきたのは、校内の情報共有だ。まず、各学年2人からなる「ICT活用部」を設置。週1回のペースで部会を開き、ICTを活用した授業改善や情報モラル教育等について検討し、その内容を教科学年団で共有している。

 全9教科の代表者と特別支援学級の担任が月1回集まり、教科を超えてICT活用事例を共有する「タブレット活用委員会」も当初から行ってきた。教科内の代表者は輪番制で、自身の授業での使用ソフト、具体的な使用場面、生徒の反応等をレポートにまとめる。それを事前に配布しておくことで、委員会当日は質疑応答に時間をかけられている。担当教員数が多い教科でも数か月に1回は代表者が回ってくるため、ICTが不得手な教員も含めてノウハウが蓄積されていく。

 同委員会を主導する学習ICT活用主担当の佐納達平先生は、教科横断で情報を共有する意義をこう説明する。「たとえば、保健体育科から発信された、屋外で端末を使用する際の注意事項は、他教科の授業でも気を付けるべきことでした。また、社会科が紹介した、授業の前日のネットニュースを教材にする方法は、国語科が応用して授業に取り入れていました。各教科から出される活用例は、他教科でも参考になる点がたくさんあり、授業づくりに役立っています」

枚方市立第四中学校 佐納達平先生
枚方市立第四中学校 佐納達平先生

ICT活用の校内推進体制(2)



他教科の授業参観で教員も学びあう



 2021年度に始めた「授業参観交流プロジェクト」(以下、JSKP)も、教科横断で情報を共有する重要な場だ。全教員がICTを活用した授業を公開するとともに、他の教員の授業を1回以上は参観する。公開する授業は、同校の研究テーマ「ICTを活用した言語能力の育成」を目指すこととした。

 授業公開時には、授業で行う活動や進め方等、評価してほしい項目を「JSKP参観シート」に記入し、参観予定者に事前に配布。参観者は授業参観後、各評価項目を3段階、または5段階で評価し、講評も記入して授業者にフィードバックする。

職員室に貼られた「授業参観交流プロジェクト」(JSKP)の計画表
職員室に貼られた「授業参観交流プロジェクト」(JSKP)の計画表

JSKP参観シート
JSKP参観シート

 ICTの本質的な活用法を探るため、参観する授業は他教科を推奨していると、西村英理教頭は語る。「教員が授業のねらいをしっかりもってICTを活用しなければ、生徒は単にICTを楽しく使うだけで、学習効果が限定的になってしまいます。チョーク1本で授業ができる教員であれば、ICTを使えばもっと効果的な授業ができるはずです。教科に関係なく、そうした授業の本質を学びあってほしいと思います」

枚方市立第四中学校 西村英理教頭
枚方市立第四中学校 西村英理教頭

 市内の他校から活用法を学ぶことも多い。枚方市教育委員会が2020年度に立ち上げた「ワーキングチーム」は、近隣の中学校6校のICT担当者が月1回のオンライン会議で、ICT活用における課題や悩みの解決策を話しあう場だ。そのメンバーでもある佐納先生は、「今後は、ICT活用に限らず、教材研究等、授業づくり全般の情報を共有したいと考えています」と語る。

ICT活用による生徒の変化



授業支援ソフト活用で生徒の表現力に好影響も



 ICT活用の成果は、生徒の授業の提出物にも表れている。社会科の授業では、振り返りとして、授業で気付いたことや要点をミライシードの授業支援ソフトに入力して提出する。授業の最後には、全員の記入内容の一覧をプロジェクタに投影し、クラス全体で共有している。年度当初と比べて、2学期は個々の文章量が格段に増えた。内容にも、自分なりの考えを述べたり、他者にわかりやすい表現を心がけたりするといった成長のようすがうかがえるという。

年度当初の振り返り例
年度当初の振り返り例

2学期の振り返り例
2学期の振り返り例


 「自分の意見が必ず共有されるようになったことで、授業中の集中力は格段に高まっています。ペーパーテストだけでは測ることができない表現力等が可視化され、評価できるようになりました」と西村教頭は語る。

 佐納先生は、生徒の表現力を高めるために、文章を入力する前には毎回、ルーブリックを提示している。生徒は入力後、「全員が理解できるように発表ができている」は◎、「伝わりやすい工夫ができている」は〇、「まとめることができている」は△と、3段階で自己評価を行う。それによって、自分の発表の良し悪しを客観的に判断し、伝わりやすさを考えて自ら表現を工夫するよう促している。

 ICT活用によって授業の効率化も図られていると、佐納先生は語る。「以前は、資料を印刷して生徒に配布し、生徒はそれをハサミとのりで切り貼りしてレポートにまとめていました。それがICTを使えば、資料の配信は一斉にできますし、資料の切り貼りも簡単に効率よく行えます。また、ミライシードの協働学習ソフトでは、生徒全員の入力内容を見ることができます。口頭発表が得意ではない生徒も、自分の考えをしっかり表現できるようになりました」

 授業で知識構成型ジグソー法(※1)を行う際にも、ミライシードの協働学習ソフトを使うことで、全グループのエキスパート活動の内容を一覧化して共有できるようになった。
※1 ジグソーパズルを解くように、問いの答えを考える協調学習法の1つ。ある課題について、役割分担を決め、同じ役割の人同士で学習する「エキスパート活動」、そこで得た知識を組み合わせて答えを導いていく「ジグソー活動」等からなる。

 佐納先生は「エキスパート活動でAを担当した生徒が、同じくAを担当した他の生徒の説明を見られるので、自分の説明と比較したうえで振り返りができます。多様な視点を共有することで、活動が充実しています」とその効果を語った。グラフや資料の読み取りでは、生徒が個々に読み取った内容を協働学習ソフトに入力して提出した後、キーワード集計機能を使って頻度の高いキーワードを抽出。クラス全体の関心や疑問はどこにあるのかを示して、生徒の学習意欲を喚起している。

枚方市立第四中学校の授業風景

端末の家庭への持ち帰り



端末がなくても成り立つ授業



 端末の家庭への持ち帰りは、全学年で実施。家庭での調べ学習等に活用している。定期考査後に、テスト範囲のデジタルドリルを宿題にする教科もある。テスト前には教員が言わなくても生徒自らドリル演習に取り組むが、テスト後にも気持ちの緩みなく学習に取り組むようにすることで、学習内容の定着を図るためだ。

 端末を家庭に持ち帰ると、学校に持ってくるのを忘れるのではないかという懸念もあるが、佐納先生は、授業中の通信障害も含め、端末がなくても授業に参加できる方法を常に用意している。「授業の振り返りであれば、端末がなくてもノートに手書きしておき、後日、端末でそれを撮影して提出すれば大丈夫です。ただ、毎日、授業で端末を使うことで、文房具と同じ感覚になってきたようで、端末を忘れる生徒はほとんどいません」と佐納先生は説明してくれた。

 情報モラル教育に関しては、2021年度、全クラスの代表生徒21人からなる「ICT委員会」を立ち上げ、端末の利用に関するルールを生徒間で話しあって作成した。鶴島茂樹校長は、「休み時間は端末を利用禁止にしていたのですが、どう安全に使うかというルールに変更していました。自分たちで作ったルールなら、きちんと守るだろうという期待を込めて、ICTを安心・安全に、かつ有効に利用するためのルール作りに取り組ませています。ICTはツールであり、基本は人権教育であることを忘れずに、生徒の規範意識を高めていきます」と語る。

枚方市立第四中学校 鶴島茂樹校長
枚方市立第四中学校 鶴島茂樹校長

展望



紙とICTの併用で授業の質を高める



 ミライシードを中心に、ICTの活用を精力的に推進している同校だが、従来の指導法も大切にしている。佐納先生は、単元のまとめに、クラゲチャート(※2)を使った振り返りシートを書かせたり、事前に教科書を読んできてほしい場合には、重要語句の空所補充プリントを宿題として課したりしている。佐納先生によれば、紙の良さは、端末を起動しなくても、すぐに確認できる点だという。何度も振り返ることで定着を図りたい場合には、プリントを利用しているとのことだ。
※2 クラゲの絵の頭の部分に主張や意見を、複数の足先に理由や根拠を書いて、思考を整理するツール。

授業風景
授業風景

 鶴島校長は、研究テーマである「言語能力の育成」のさらなる充実に向けて、紙とICTを併用しながら、授業の質を高めていきたいと語る。

 「ICT活用が教員にも生徒にも定着した今、あらためて思うのは、ICTをスムーズに使えても、学習効果につながるとは限らないということです。もし端末が動かなくなっても、すぐに黒板で授業を続けられるような、教員ひとりひとりの『授業力』を高めることが重要です。そこで、ICTに頼らずに授業ができるよう、『ノー・タブレットデー』を設けようかと考えているところです。ICTと従来の指導それぞれの良さを生かしながら、生徒の資質・能力を高める授業づくりを推進していきます」

タブレット学習用オールインワンソフト「ミライシード」の詳細はこちら

教育委員会のICT活用推進施策
ポータルサイトで授業づくりに役立つ動画・資料を配信



各学校から寄せられた約400のICT活用の授業事例を掲載



 枚方市教育委員会は、「枚方版ICT教育モデル」の中で、学習指導要領が示す資質・能力の3つの柱を育成するために、「5つのCの視点」を大切にし、学校と家庭とのシームレスな学びに取り組んでいる。「『チャレンジ』は課題発見・解決能力、『コミュニケーション』は子供同士で対話する力を育み、『コラボレーション』は他者や地域、海外ともつながることを目指します。また、『クリエイティビティ』はタブレットでの表現力や創造性、『クリティカル・シンキング』は他者の主張を聞き、自分の意見を形成していく力を意図しています」と、倉田仁司統括指導主事は説明する。

 その実現の手段として、ICTに関するコンテンツを一元掲載するポータルサイト「GiGAスク! ひらかた」を立ち上げた。その中の「みんなで高めよう!ICT 20 Steps」は、授業づくりに必要なICTスキルを紹介した全20話の動画シリーズだ。1話約10分間とし、機器の操作が苦手な教員と得意な教員が協力してICTを活用した授業づくりに取り組むという物語仕立てにした。ほかに、「HI-PER」には各学校から提供された400以上のICT活用例を、「HI-PER the MOVIE」には授業づくりに精通した教員「枚方市授業マイスター」によるICTを活用した授業の動画を掲載している。

 「2020年度は、学校から提出された事例はすべて配信し、学年・教科・単元で検索できるようにしました。2021年度は、『5つのCの視点』も入れた事例を配信しています」と、井手内太吾統括指導主事は語る。

 授業力向上を図るための研修にも、ICT活用に関する内容を盛り込むほか、校長・教頭、生徒指導主事を対象に、情報モラル教育やデジタル・シチズンシップ教育に関する研修を実施。それらの研修の一部も撮影し、教職員研修等の情報ポータルサイト「まなViVA! ひらかた」で配信している。

各学校の代表者の「ワーキングチーム」で横の連携を強化



 2020年度には、学校間の連携を強化しようと「ワーキングチーム」を立ち上げた。2021年度は、小学校6チーム、中学校3チームに分け、チームごとに各学校の代表者が月1~2回、オンラインで会議を開き、情報を共有している。チームごとに「ICT活用」「情報モラル」等のテーマで研究に取り組み、成果はチームリーダーが参加するオンライン会議で共有。その会議の録画もポータルサイトで配信する。

 市の調査では、市内の全児童生徒の約8割が毎日端末を活用しているという結果が出た。ただ、教員間で活用状況には差があり、情報モラル教育の実施状況も学校によって異なる。それらを解消するため、教員研修の一層の充実、ワーキングチームの活性化等に取り組んでいく。加えて、学期ごとに児童生徒にアンケートを実施してICTの活用状況を調査し、国や大阪府が行う学力・学習状況調査の結果と合わせて分析。ICTの活用と学力との関係を検証していく考えだ。

●自治体概要
人口:約39万8,000人
面積:65.12km²
市立学校数:小学校45校、中学校19校
児童生徒数:約3万人

●ICT環境
学習者用端末:タブレット型
通信環境:無線LAN、LTE
通信速度:無線LAN 1Gbps、LTE 1.7Gbps
教員向けICT研修:対面研修、動画配信等
ICT支援員:17人
ICTの研究会等:情報教育推進ワーキングチーム(101人)
《編集部》

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