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クウェート出身のマイクロソフト新GIGA代表「誰もが自分らしく学び続けられる社会を目指して」

 2024年1月、日本マイクロソフトのGIGAスクール政策室長に宮崎翔太氏が就任した。宮崎氏のマイクロソフトでのこれまでの経験、教育への取組み、就任にあたっての抱負などを聞いた。

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日本マイクロソフト GIGAスクール政策室長の宮崎翔太氏
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  • インタビューに応える宮崎翔太氏
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 NEXT GIGAが動き出す中、マイクロソフトが教育への取組みを加速している。2024年1月、日本マイクロソフトのGIGAスクール政策室長に宮崎翔太氏が就任した。宮崎氏は教育に関する現状の課題をどう捉え、その課題解決のためにどのようなビジョンをもっているのか。マイクロソフトでのこれまでの経験や教育への取組み、就任にあたっての抱負などを聞いた。

地域や行政などたくさんのステークホルダーと連携して子供から大人までの教育を推進

--GIGAスクール政策室長就任おめでとうございます。まずは、ご経歴を教えてください。

 私はクウェートで生まれ、幼少期を過ごしましたが、湾岸戦争の影響で帰国してからは日本で過ごし、2006年にマイクロソフトに新卒で入社して19年目になります。これまで民間、公共、パートナー、政策渉外・法務など社内でのさまざまな部署を経験してきました。2022年7月にパブリックセクター事業本部に戻り、2024年1月にGIGAスクール政策室長に就任しました。

 教育に関しては専門ではありませんが、幼少期に学びが中断した経験から、生涯に渡る学びの継続や学びの多様性を担保することに強い関心があります。その入り口となるGIGAスクール構想に携われることに喜びと強い責任を感じています。

--19年の中で教育との関わりはあったのでしょうか。

 政策渉外・法務本部時代に、教育や人材育成と接点がありました。たとえば2016年には佐賀県でのデジタル人材育成施設の開設に携わりました。佐賀県、佐賀市、佐賀大学、地元企業など産官学の連携協定を結んだプロジェクトとして今も続いており、そのご縁から佐賀大学の職業人向けリスキリングプログラムの実施委員も務めています。

 また、明治初期に北海道を開拓し、札幌市の街づくりの基礎をつくったのが佐賀藩士ということから、2018年には佐賀県と北海道の交流事業のお手伝いもしました。それぞれの地域の子供たちが協力して当社のマインクラフトを用いて未来の街をつくり、発表するイベントでした。マインクラフトはデジタル空間上にブロックを自由に配置して建物を作ることや、離れた場所にいる人とも共同作業ができる世界で1億人以上が利用するゲームで日本でも大人気ですが、創造力やデザイン、協働学習などの効果があり、教育版マインクラフトではプログラミング学習など、世界中の教育現場で活用が進んでいます。

 子供たちが当社テクノロジーを通じて楽しく創造作業に没頭しながら、より高度な作業を行うためにプログラミングを夢中で学び、いつの間にか実践され、離れた地域の子供たちと自然に交流している姿には心を打たれますし、逆に色々と勉強させてもらった気がします。そして何よりも、子供たちがもつたくさんの可能性を感じて元気をいただきます。マインクラフトを通じた国際交流など、こういった機会をもっともっと全国の子供たちに体験していただきたいと考えています。

 2017年からは大人向けの人材育成プロジェクトであるEmpowered JAPAN実行委員会の事務局長として「いつでも どこでも 誰でも、働き、学べる世の中へ。」をスローガンに全国の自治体や企業、有識者と連携し、テレワークやAI活用などの研修事業に取り組んできました。地方など、住んでいる場所によってはキャリア選択の幅が狭まってしまうこと、そして出産や育児、介護など、ご自身のライフステージにおいてキャリアが継続できないこと。これらの社会課題を解決し、東京圏への人口一極集中を改善するため、遠隔での雇用形態を提言し、いくつかの地域でモデルケースを創出してきました。

 Empowered JAPAN実行委員会においてもコロナで影響を受けた学校向けの「学びの継続」にも緊急で取り組みました。オンライン授業が急きょ必要となった際、パソコンが確保できない学校にOEMメーカー製のパソコンをWi-Fiルーターと一緒に無償で貸し出し、突然の遠隔授業を支援するためにMIEE(Microsoft Innovative Educator Expert、マイクロソフト認定教育イノベイター)の先生方の動画を無料で公開し教育現場の皆さまにご利用頂きました。

 これまでの教育との関わりの中で、特に記憶に残っているプロジェクトとして2020年8月の「空飛ぶ教室-オンライン修学旅行in流山市」があります。緊急事態宣言で中止になってしまった修学旅行をオンラインで実現しようという、地元の教育アドバイザーの方が企画され、直接お声がけいただいた取組みです。感染症対策を徹底のうえ、チケットを持った小学校6年生たちが空港の搭乗ゲートを模した入口を通り、会場(機内)に入場し、手元のパソコンで繋がった場所がどこの国かチームで協力して調べる。最後は、現地の方にオンラインで街中などをご案内いただき、直接交流するという内容です。企画段階から当事者である小学生や保護者にも入ってもらい、辞書や教科書など学校にあるものを活用し、お金をかけずに実現するということを徹底された企画でしたが、ANAさんのご協力もあり、会場の雰囲気は非常に本格的で、大人たちも一緒にワクワクするような体験でした。

 当社はパソコンの貸し出しやセッティング、Teams利用のお手伝いをさせていただきました。当日の朝は企画担当の小学生や保護者の方にもパソコンのセットアップにご協力いただきました。コロナ禍で行動が制限される中、子供たちが日本語・英語で与えられたヒントを元に辞書やパソコンを駆使しながら一生懸命に調べ、現地(正解はタイでした)と交流している姿は今でも印象に残っていますし、大人たちにとってもすごく楽しい一生の思い出になりました。

 それ以外にも、デジタルの安心安全な利活用を学校現場で実現するためにマイクロソフトのフィンランド法人と協力したプロジェクトや有識者の皆さまとの連携企画、AIを用いた中学生向けのワークショップやスーパーサイエンスハイスクールの高校生向けのプレゼンテーションメンターやキャリア教育など、教育に関わる機会が何度かありました。これらの活動を通じて大学の先生方など、たくさんの方々と出会いましたが、私自身も触発され、働きながら公共政策大学院で学び、リカレント教育に関する研究論文を執筆しました。

 いずれの教育プロジェクトも我々マイクロソフトだけでなく、さまざまな企業や行政、保護者、アカデミア、そして時に当事者である子供たちと連携することで実現してきました。それはGIGAスクールにおいても特に意識していることです。

GIGAスクール構想の先を見据えて

--子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中でGIGAスクール政策室長に就任された、今の思いをお聞かせください。

 GIGAスクール構想は1人1台端末の整備を世界でも類を見ないスピードとスケールで実現した素晴らしい政策です。ただ、誤解してはいけないのは、何でもデジタルにすれば良いというわけではなく、先述したオンライン修学旅行からもわかるように、デジタルはあくまでも手段であり目的ではありません。特に、日本の学校教育で素晴らしいものは残すべきだと考えていますし、デジタルは子供たちや先生方がより多くのことを達成するために存在します。デジタルとアナログのベストミックスから、子供たちの学びをはじめ、先生方の働き方や労働環境の改善、社会全体のウェルビーイング向上に貢献する大きな責任を、今、感じています。

 学校教育の情報化の推進に関する法律も2019年に施行されましたが、この法律は家庭経済状況、地域、障碍の有無にかかわらず、すべての人が学校教育の情報化のメリットを享受し、教育の機会均等が実現されることを定めています。教育の機会均等は非常に重要で、IT企業として貢献できる余地がきわめて大きいと思います。

 また、先生方は業務量の多さや責務の重さ、突発的に発生する問題などから非常に多忙ですが、同時に先生方ご自身のバーンアウトの問題も顕在化しています。持続可能な働く環境を作り、何よりも先生方が幸せになっていただかなければ子供たちの幸せは実現できません。私はこれまで民間や自治体、医療機関などの働き方改革に多く関わり、マイクロソフトは働き方改革の取組みから、政府からも数々の表彰をいただいています。ただ、他業種におけるノウハウを学校現場にそのままもってくれば良いわけではなく、子供たち・先生・保護者・自治体にある複雑な関係性や法令等を踏まえてさまざまな提案をしていきたいと考えています。

 マイクロソフトは1975年創業当時の「すべての机と家庭にコンピュータを」というスローガンから、「地球上のすべての個人と組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションに変化しました。現在、国内でも95%以上の企業さまにWindowsやOfficeをご採用いただいており、インフラを担う責任を感じています。また、世界では教育機関に向けたサイバー攻撃が急激に増加する中、我々は教育機関だけではなく安全保障領域を含め、世界でもっとも厳しいセキュリティ要件を求められるお客さまにもご利用いただいている、業界最高レベルのセキュリティを提供しています。大切な情報をお守りし、パソコンを安心してお使いいただく責任があり、そのため、操作性が複雑になってしまうこともあります。ご面倒をおかけすることがありますが、その価値をご理解いただき、また、少しでもわかりやすくご利用いただけるよう情報発信や製品の改善に努めながら、教育委員会や学校に寄り添われる全国の販売代理店さま向けの認定プログラムやトレーニングなど、幅広いご支援を実施しています。

NEXT GIGAの推進に向けてグローバルでチームを編成

--どのようにNEXT GIGAへの取組みを進めるのでしょうか。

 日本を主体にアメリカやアジアを含めて合計50人以上が連携しあう組織体を作り、公共のお客さま担当やOEMメーカーさまのデバイス担当、販売会社さまの担当、Windowsの担当、IntuneによるMDMの担当など、あらゆるチームをミックスする体制になっています。また、GIGAスクール構想の第1期にいただいたさまざまなご意見についても真摯に受け止め、米国本社のエンジニアリングチームにも週次や隔週で直接フィードバックしています。たとえばNEXT GIGA端末の標準であるWindows 11の起動時間が短くなる など、利便性向上や機能拡張が格段に進んでおり、これらのメリットをわかりやすくお伝えできるよう努めていきます。

 先生方にお話を伺うと、課題が複雑化する中、先生方や行政にそのしわ寄せがいくケースが多く見られます。学習指導要領にある個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実も、HOWの部分はどうしても現場任せになることが多く、先生方の負担は積み上がるばかりであり、教員不足も大きな問題です。

 やはり先生方にとっての働きやすい環境を実現して、教員になりたいという方も増えるようにしたい。何よりも先生方のいちばんのモチベーションは、子供たちに向き合う時間が増えることだと思いますので、それをテクノロジーの活用で実現していきたいと考えています。また、ChatGPTに代表される生成AIの導入が世界中で急激に進んでいますが、教育現場にもたらす価値も非常に大きいと思います。それは先生方の負荷を軽減するなど校務でのご利用はもちろんのこと、子供たちが英語の音読学習を生成AIで実現するなど、すでに世界中で事例が出てきています。当社としてはパートナーシップを結ぶChatGPTで有名なOpenAI社の技術を自社サービスにも搭載しながら、教育現場における活用方法をお客さまとともに模索していきます。

社会全体のウェルビーイングを高めるために

--日本の教育におけるマイクロソフトの役割は何だとお考えですか。

 VUCA(変動制、不確実性、複雑性、曖昧性)とよばれるこれからの社会においては答えのない課題に対する向き合い方が問われる時代だと思います。そういった時代においても、誰もが自分らしく、豊かに活躍するための基礎を作ることも教育の目的に含まれると思います。最先端のテクノロジーを世界中のあらゆる産業に提供する企業として、マルチステークホルダーで協力しながら、答えのない課題に一緒に対応していく。そのための業種を超えた橋渡しはもちろん、世界中の知見を持ち寄って日本の教育に貢献していきたいと思います。

 また、今は、子供たちひとりひとりの思いも多様化した、あるいは多様化していて良いのだと言える時代です。その中で、子供たちのさまざまな悩みや課題に気付き、ケアするために、プライバシーに配慮した教育データの利活用が大切になると思います。

 それは政府が提唱する「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現であり、私も強く賛同します。いつでもどこでも誰とでも、という考え方は、我々の働き方改革の文脈でも大切にしていますが、教育における「誰もが」は学習障碍・発達障碍、病気療養、不登校の子供たちを含んだ、すべての学習される方。「いつでも」はもっと先に進みたい子供はどんどん進められ、学び直したい方は戻って学びのペースを自分で調整できること。「どこでも」はご自宅はもちろん、病院などの教室外からでも授業を受けられること。そして「誰とでも」はみんなで一緒に学びあえて先生方がファシリテーションするような関係性で、海外や遠隔地など、教室外の専門家などからも学べる環境です。

 「どこでも」という観点では、端末の持ち帰り学習がまだまだ進んでいないことも政府が課題としてあげています。持ち帰り学習ではご家庭における子供たちのサポートが重要になりますが、保護者の方々が普段お仕事やご家庭で慣れ親しんでいただいているのはWindowsが多いですので、それを提供する企業としても特に貢献していきたい分野です。

 そして、「自分らしく学べる社会」とは、社会に出ても学び続ける大切さや、学ぶ楽しさを実感できる社会だと思います。これまで勉強が楽しくない、あるいは勉強が遅れていると思われてきた方々にも、それが個性だと気付ける社会が実現できれば、日本の未来のイノベーションにも重要な可能性が生まれるのではないでしょうか。

 また、今、カリキュラムのオーバーローディングも含め、先生方に求められるものは足し算ばかりで、引き算されない状況になってしまっています。我々GIGA政策室では、端末の選定だけではなく、そもそもの問題に焦点を当て、これまで培ってきたたくさんの知見や多種多様な業界の皆さまとの連携により日本の教育シーンのあるべき姿、社会全体のウェルビーイングの実現に向けた提言をしようと考えています。

教育をより良くするために

--これからの教育をより良くするためにメッセージをお願いします。

 私には教員経験はありませんが、大学や高校、中学でキャリア教育の講演をさせていただくことがあります。そのときに感じるのは、ご家庭以外でもっとも多く接する大人のひとりとして、先生方が与える影響はとても大きく、子供たちの未来に直結するということです。また日本人としての誇りであるおもてなしや礼儀正しさなど、ベースにあるモラルも先生方によって支えられています。AIが進んで働き方が変わったとしても、教員という仕事がなくなることはなく、むしろより重要になる、本当にやりがいのある仕事だと思います。そんな先生方にとって現在、「やりたい」ことよりも、時間や手段の制約の中で課題が増え、「やらなければ」という状況が多いのではないかと思います。

 我々はまず、先生ご自身が「やりたい」と思っていただける、そして何よりも「やれそうだ」と思っていただける手段の部分にも注力していきます。そのためにも私自身、もっと現場の先生方や行政の方、保護者の方々とお話しし、厳しい内容を含めぜひご意見いただき改善していきたいと考えています。そして教育は学校だけでなく、ご家庭や地域、企業も含めて社会全体で子供たちを育てることが大切ですので、社会や地域の一員である大人に対するコミュニケーションも大切にして、微力ながら会社一丸となってこれからの日本の教育を支えていきたいと考えています。

--ありがとうございました。

 さまざまな人を繋げてきた経験と教育への明確なビジョンを示した宮崎氏の話からは、日本の教育が今後さらに良い方向に進むという期待感が高まった。グローバルな知見で日本の教育を支えるマイクロソフトの今後に注目したい。

宮崎翔太氏
 日本マイクロソフト 公共戦略営業本部長 兼 GIGAスクール政策室長。クウェート生まれ。1990年に夏休みで日本に帰国中、イラクによるクウェート侵攻(後の湾岸戦争勃発)により日本での生活がスタート。2006年に新卒でマイクロソフトに入社し、中堅中小企業営業、常務補佐、パートナー営業、自治体・医療・公益法人向けの事業開発、政策渉外・法務本部 地方創生担当部長(働き方改革・医療・教育政策担当)等を経験し現職。現在は安全保障や公共安全、重要社会インフラ顧客向けのDX推進も担当。2021年 東京大学公共政策大学院修了。公共政策学修士(専門職)。修士論文は「日本におけるリカレント教育普及の課題」。キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー資格を有する。

学校現場を変えていく!(日本マイクロソフト)

 マイクロソフトが全国で行っている取組みを網羅したマイクロソフト初の教育機関向け総合カタログ。話題の生成AI、データ活用、端末、セキュリティ、学習・校務アプリといった5つの領域から案内している。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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