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新課程、授業をどう変える?駿台の看板講師陣が明かす教科指導の最前線

 いよいよ2025年度から始まる新課程入試へ向けて準備が本格化する。新学習指導要領に対応した新しい入試はどう変わり、各教科ではどのように指導をしていけば良いのか。豊富な知見とデータから新課程入試の研究と受験指導を進めている駿台予備学校が、高校教員を対象とした「教科指導研究会」を開催。駿台のベテラン講師陣がその最前線を語った。

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歴史総合セミナー内、参加者とのディスカッションのようす
  • 歴史総合セミナー内、参加者とのディスカッションのようす
  • 横浜校2号館校舎責任者・池浦和彦氏と横浜校1号館校舎責任者・光武勇治氏
  • 現代文のセミナーを担当した霜栄氏
  • 歴史総合(日本史)のセミナーを担当した田部圭史郎氏
  • 歴史総合(世界史)のセミナーを担当した鵜飼恵太氏
  • 現代文セミナーのようす
  • 歴史総合セミナーのようす
  • 歴史総合セミナー内、参加者とのディスカッションのようす

 今年度の受験もピークを過ぎ、いよいよ2025年度から始まる新課程入試へ向けて準備が本格化する。新学習指導要領に対応した新しい入試はどう変わり、各教科ではそれに向けてどのように指導をしていけば良いのか。

 豊富な知見とデータから新課程入試の研究と受験指導を進めている駿台予備学校(以下、駿台)は、こうした学校現場の困惑の軽減や課題の克服の一助となるべく、高校教員を対象とした「教科指導研究会」を開催。駿台の看板とも言われるベテラン講師陣がその最前線を語った。

新課程入試に向け駿台の看板講師陣が明かす指導のポイントとは

 駿台予備学校横浜校は2024年2月7日から9日の3日間、近隣の高校教員を対象とした対面方式の「教科指導研究会」を開催した。横浜校1号館校舎責任者・光武勇治氏によると、「2025年度より新課程の大学入試が始まるにあたり、高校の先生方から『どう指導していけば良いのか手探りの状況だ』と聞き、予備学校として何かお役に立てるのではないかという思いからこの企画が生まれた」という。

2024年2月7日から9日の3日間にわたって開催された「教科指導研究会」

 入試はどう変わるのか。それに向けてどのような教科指導を行っていけば良いのかと不安を抱える高校教員向けに、駿台が誇る看板講師陣が英語、数学、現代文、化学、日本史・世界史それぞれの指導の方向性や変化のポイント、新課程で求められる力などを惜しみなく披露した。

<各教科のテーマと登壇した講師>
・英語:斎藤 資晴(さいとう もとはる)氏「AIが英語教育を変える~ChatGPTを作問・添削指導で有効活用」
・数学:雲 幸一郎(くも こういちろう)氏「2次関数の周辺を考える~数II以降も視野に入れて」
・現代文:霜 栄(しも さかえ)氏「国語の変遷を辿る~新課程共テ実用現代文」
・化学:吉田 隆弘(よしだ たかひろ)氏「エンタルピー・エントロピーでさらに面白くしたい高校化学」
・世界史・日本史:鵜飼 恵太(うかい けいた)氏・田部 圭史郎(たなべ けいしろう)氏「歴史総合を探究する~世界史と日本史の対話」


 日本史・世界史の講師による「歴史総合」の解説は、科目横断の新しい試みでもあったが、両講師が授業の進め方のポイントを指南するとともに、参加者との間でディスカッションも行われるなど、参加者の満足度は高く、好評を得ていた。

 ここからは、共通テストで問題文が大幅に増える「現代文」と、新課程の中でもカリキュラムが大きく変わる「歴史総合」にフォーカスを当て、研究会の一部をレポートしていきたい。

新課程で求められるのは「AIと協働でき、AIを使いこなす」力

 「現代文」について講演した霜氏は、「文章の読み方がわかり、読解の基礎を築くことができる」と評判の高い、駿台のベテラン看板講師として知られている。霜氏は、2045年に「あらゆる分野でAIが人間を超えていく」シンギュラリティが到来するという米国実業家のレイ・カーツワイル氏の説を紹介した。しかし、AIは人間のすべての能力を凌駕するのではなく、思考能力に近いものを代替するに過ぎず、「シンギュラリティが起こった近未来では、人間がAIを使って人間を支配する社会が到来する。したがって日本の教育でも、AIと協働でき、使いこなせる人材の育成を重視している」と語った。

現代文講師の霜栄氏

 また、教育の歴史を振り返り、2022年の新課程スタートは、1872年における公教育の開始、1947年の教育基本法施行に続く、75年に1度のサイクルでやってくる大きな教育の変化の波であり、今回はOECDによる教育変革の提言を踏まえて行われている「経済主導の教育改革」だという。霜氏はこうした背景を踏まえ、知識がすぐ陳腐化していくような変化が速い社会で、AIと協働しながら人生を切り拓いていくのに必要な力、すなわち「自身で学び続けていく力」が必要だと指摘。その基盤となる力として、現代文でも客観的思考力論理的思考力構造的思考力などがより重視されるようになると述べた。

「歴史総合」のような科目横断型の学習も増加

 一方、新課程から新しい科目として登場した「歴史総合」では、こちらも日本史・世界史の看板講師による科目横断というユニークな試みでの講演が行われた。新課程では、歴史に限らず全教科に共通して、探究学習を軸にした科目横断的な要素を色濃くしていく傾向にある。日本史講師の田部氏は、「歴史とは時代の構造がどのように形成され、それがどう崩壊し、新たな形へと作り変えられていくのか。日本史の古代であれば律令国家体制、中世であれば封建制社会、近世であれば幕藩体制といった構造の組み立てと崩壊を俯瞰して見ることだ」と述べたうえで、時代がどう展開したのかという「縦」で読むことを重視してきた日本史が、新課程の歴史総合では「世界の中の日本」という視点で「横」のつながりを意識しながら教えることがポイントになると示した。

日本史講師の田部圭史郎氏

 また、田部氏は、「歴史総合という科目の誕生は、歴史の学習の方法を考えたときに、文章力や読解力、語彙力を向上させるうえで、非常に良い影響を与えてくれるのではないか」と評価。ここ数年の共通テストなどの傾向から、日本史は知識を覚える・理解するだけでなく、日本史を通して文章を正確に読み取る力、語彙を組み立てながら文章にして問いに答えていく知識の運用力や説明する力を身に付けることが求められており、田部氏自身の役割も「日本史を教える」だけでなく「日本史を通して文章を読み取る力を身に付けさせること」も重要になってきていると語った。

文全体の構造を確認しながら論理的・客観的に理解する

 では、新課程の入試はこれまでとはどう変わるのだろうか。引き続いて、両教科の変化の具体的な内容や対策の仕方などを見ていきたい。

 霜氏によると、現代文の読解は(1)客観(2)論理(3)構造の3領域に分けて考えられ、それぞれの読解については、先ほども同氏が指摘したように、客観的思考力・論理的思考力・構造的思考力を磨くことが求められるとした。

(1)客観:文章の形式を見出して内容を捉えることで、他者の主観を知る。
(2)論理:該当物を見比べ、論理的に正しい関係を辿る。正しい関係とは同値(何かと何かがある意味で同じ)と対立(何かと何かがある意味で異なる)の2つがある。これはAIやコンピュータが2進法で判断することにつながっている。
(3)構造:何が主題か、主題に沿って何を主張しているのか、全体を見渡す。

 霜氏は、共通テストの試作問題でもこの3領域が重視されているとし、「文章の外に出て全体を俯瞰し、どんな構造をしているかを捉え、何を言いたいのかを客観的、論理的に理解できる力を育む必要がある」と強調。ちなみにこれは、OECDが提言する読解リテラシーとも合致しており、「(1)(2)(3)とも、問題で求められている能力としては決して難しくはないものの、情報が煩雑に絡み、不要な情報も混在しているため、まったくの初見だと限られた時間で解かなければいけない受験生には厳しい内容。ただしこれは、ネット社会を前提に、膨大な情報の中から必要なものを選び取り知識として運用していく訓練なので、まずは問題の煩雑さに慣れて、応用的な思考力・解答力を養うことが大切だ」と語った。

 さらに、入試という限られた時間の中で膨大な情報を処理するには、「『情報の優位性』をチェックしながら読んでいくことが最大の鍵」だと言い、「特に新課程で必ず出題されることになった実用的文章を含む資料型総合問題は、『非連続型テクスト』(図表、リスト、イラスト、写真などの情報)が多い複数テクストであり、従来の『連続型テクスト』(評論や小説などの構造をもって文脈を発生させる普通の文章)とは処理の仕方が異なる。まずは非連続型テクストを見て、そのタイトルやキャプションなどを確認して各資料の関係性や大枠をつかみ、それから本文などの連続型テクストを読んでいくと良い」と、新課程入試への具体的な対策についてアドバイスを送った。

入試という限られた時間の中で膨大な情報を処理するには、「『情報の優位性』をチェックしながら読んでいくことが最大の鍵」(現代文・霜氏)

 一点、 霜氏が案じていたのは、新課程のカリキュラム上、実用国語を重視する裏側で、文学の優先順位が下がっていることだ。新課程では高校の3年間、学校の授業では一度も文学作品に触れないまま終わってしまうケースも少なくないと考えられる。

 「文学を通じて、登場人物という他者のことをもっと知りたいという強い主観をもつことが客観性を与えてくれる」と述べ、新課程で求められる力を育むうえでも、文学に触れる機会は必要なのではないかと問いかけた。

「世界の中の日本の位置づけ」を学ぶ歴史総合

 一方、歴史総合においては、世界史の鵜飼氏、日本史の田部氏とも、「歴史総合では扱う情報量が大幅に増え、教える時間が足りず、学校現場の先生方の負担が計り知れない」と懸念を示した。そこでカギとなるのが、「世界史と日本史をいかにつなげるか」だ。

 鵜飼氏は、「歴史総合という科目は、世界史の中に日本史を包含する形になっている」とし、歴史総合に近い観点で出題された例として、2023年度の東大世界史の問題を挙げた。この問題では、近代世界において、日本を含めた複数の国で「立憲制」が確立されていく過程を、各国での出来事を相互に関連付けながら記述させている。鵜飼氏は、「教科書の内容すべてを取り上げるととても時間が足りないが、『立憲制』のようにテーマ史で区切ることで、出来事を類型化して授業を構成してみてはどうか」とのアイデアを示した。

世界史講師の鵜飼恵太氏

 また、田部氏は教科書に関して、「同じ歴史総合でも、日本史寄り、世界史寄りの教科書があり、さらに世界史で扱われている国も教科書によっては偏りもあるため、担当される先生が使いやすいものを選んでほしい」と語った。

 歴史総合の回では、最後に鵜飼氏、田部氏と会場の参加者とのディスカッションが行われ、参加していた教員からは、授業の時間数と、新しい教科書に詰め込まれた情報量との兼ね合い、さらには探究と知識学習との兼ね合いなどをどうやってバランスよく進めればよいのかといった悩みが寄せられた。また、共通テストではすでに時間が足りずにすべて解ききれない生徒が出てきていることから、他教科も含めて試験では時間配分がこれまで以上に重要となるとともに、読解力と情報処理能力の向上が課題であるとの認識も共有された。

時間配分がこれまで以上に重要となるとともに、読解力と情報処理能力の向上が課題

成長のチャンス、「変化はウェルカム」の姿勢で

 新課程入試では、従来の文章・表・グラフ以外にも、新聞記事や法令、ポスター、写真、メール、ウェブサイトなど、生活で触れるすべての文章が読解の対象になり、より実用的なものとなる。それに伴い、出題形式も変化していくだろう。時代の変化に伴い、大学入試においても大きな変化の波が来ていることは確かだが、だからこそ入試を通して身につけるAI時代に必要なリテラシーは、今後の社会を生き抜くことに役立つはずだ。霜氏は、「変化はウェルカム」というマインドセットが大事だと述べている。

 「変化を前に怯むのではなく、日本の未来をつくる子供たちが、新課程の目指す『変化の激しい社会を自らの力で人生を切り拓き生き抜く力』『自ら学び続ける力』を身に付けるとともに、さらに学力を高めて志望大学に合格できる力を養っていけるよう、高校の先生方を引き続きサポートしていきたいと思っています」(横浜校2号館校舎責任者・池浦和彦氏)

左から、横浜校2号館校舎責任者・池浦和彦氏と横浜校1号館校舎責任者・光武勇治氏

 駿台予備学校では今後もこのような企画を開催予定だ。また、駿台教育研究所からは、高校・中学校現場で指導にあたっている教員の授業力向上をサポートする有料講座も用意されている。長年にわたり学力伸長・志望校合格を叶えるために受験生と向き合い、入試問題研究や教材・授業研究を積み重ねてきた駿台講師が講座を担当し、より深く学問の本質を学べる講座となっているため、ぜひそちらも授業の参考にしてほしい。

 今後も駿台は、受験予備校としての立場から日本の教育の最先端に立ち、問題分析や模試作成におけるノウハウや情報を生かして日本中の先生方のサポートを強化していく。

駿台予備学校 中学校・高等学校の先生方へのご案内
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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