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「教員の働き方」「生徒の学び方」を共に改革する教育データの活用法とは【株式会社すららネット】

 各自治体がMEXCBTを活用するには、民間事業者が開発した標準モデルに準拠した学習eポータルをブラウザベースのソフトウェアとして利用する必要があります。今回は、全国自治体で初めて独自の学習eポータルを開発している高知県の取組を紹介します。

事例 ICT活用
学習eポータルを使用する生徒の様子
  • 学習eポータルを使用する生徒の様子
  • 実証事業の取組全体像
  • 高知家まなびばこのダッシュボードイメージ
  • スタディ・ログを確認する生徒の様子

1)高知県とeポータルについて

 多様な子どもたちを「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びの実現」に向けて、どのように教育に関するデータを利活用するかについて、文部科学省をはじめとした関係省庁などにおいて検討されています。
 経済産業省では、『「未来の教室」ビジョン(2019年6月)』などにおいて、学習者を中心とした教育データ利活用のあるべき姿を取りまとめてきました。その後、デジタル庁や文部科学省と協力して「教育データ利活用ロードマップ(2022年1月)」を策定し、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現に向け、データの範囲や品質、組み合わせの拡大・充実が重要であることなどを示してきています。
 その中で文部科学省は2021年11月から公的なCBT(Computer Based Testing)プラットフォームである「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」の運用を開始しました。各自治体がMEXCBTを活用するためには、民間事業者が開発した、標準モデルに準拠した学習eポータルをブラウザベースのソフトウェアとして利用する必要がありますが、今回は、全国自治体で初めて、独自の学習eポータルを開発している高知県の取組を紹介します。

学習eポータルを使用する生徒の様子 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

2)高知県が独自の学習支援プラットフォームを開発

 高知県では、児童生徒の個々の学びの進度への対応やデジタル社会に対応する人材の育成を図るため、「第2期教育等の振興に関する施策の大綱<第3次改訂版>」の基本方針のひとつに、「デジタル社会に向けた教育の推進」を挙げています。
 同県では、各種デジタル教材やツールの活用は、この大綱で目指している新しい学習スタイルの根幹になると考え、2021年4月から学習支援プラットフォーム「高知家まなびばこ」※を運用しています。
 県内の公立小中学校・高等学校および特別支援学校の全児童生徒および全教職員にGoogleアカウントを付与し、児童生徒においては小学校入学から高校卒業まで同じIDで運用できる仕組みを整えていました。こうした環境を活かし、各種学習ツールや校務支援システムから得られる様々なデータを収集・蓄積し、ダッシュボードで視覚化しました。

※紹介動画・前編後編

3)2022年度 経済産業省「未来の教室」実証事業に参画

 「高知家まなびばこ」を活用し、株式会社すららネットは、経済産業省「未来の教室」実証事業として、高知県教育委員会と、高知県立高知丸の内高等学校(以下、高知丸の内高等学校)、大日本印刷株式会社(DNP)を実証パートナーとし、学習eポータルと日常の学習ログの連携によるユースケースの創出を行いました。
 実証事業では、すららネットのICT教材「すらら」を活用して、日々の学習内容・時間などのデータの収集や弱点単元の学習支援を行いました。また、DNPのデジタル採点システム「リアテンダント」を活用して、紙面の定期考査や小テストのデジタル化および結果データの収集を行い、点数だけでは表せない生徒個人が苦手と感じている部分を可視化しました。
 これらのデータを「高知家まなびばこ」に蓄積し、ダッシュボード機能によって、生徒の日々の学習ログやテスト結果など異なる情報を一つの画面で可視化することで、学習指導に活かすことができるようになりました。これにより、効率よく学習ログやテスト結果などの情報を得ることができ、生徒にとって学習をしやすく、教員にとって指導負担が少ない「学習者の学び方改革」と「指導者の働き方改革と指導の改善」の実現が可能となります。
 「これまで、定期テストの結果は紙で、デジタルドリルの学習履歴はWebサイトをチェックするといったように、媒体が様々で結果や履歴を一括して管理することができませんでした。そのため、学校現場では、これらの点在したデータを集約する必要があり、表計算ソフト(Excel)を使って、教員がそれぞれのデータを手入力するしかなかったのです。ところが、「高知家まなびばこ」を活用することにより、教員をこのような作業から解放し、本来の『スタディ・ログをいかに指導に活かすか』という点に集中してもらえるようになりました。」(高知県教育委員会事務局 教育政策課 武市正人氏)

実証事業の取組全体像 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

4)すららネットのスタディ・ログとDNPのデジタル採点システムの活用で教員の負担が大幅に軽減

 この実証事業について、実際の現場ではどのような手応えを感じているのでしょうか。
 高知丸の内高等学校で教育データの利活用に積極的に取り組んできた数学科・岡﨑俊樹先生は、実証の成果について次のように感じています。
 「たとえば、学習指導要領の改訂により2022年度から高校にも観点別学習状況の評価が導入されたことから、テストを『知識・技能は何点、思考・判断・表現は何点』のように作成する必要があります。そのため、採点作業のとき、これらを教員が手作業で採点するとなると、時間も手間もかかってしまう状態でした。しかし、全教員がデジタル採点システムを使ってみたところ、観点別に自動集計されるので、集計ミスも防ぐことができて、採点時間を大幅に短縮することができました。さらに、正答率が低い問題を分析し、その結果を持って教員同士で出題方法についてのフィードバックも得られるので、これまで採点に費やしていた時間を、授業やテストの改善のための時間に充てることができるようになったのです。」
 また、生徒一人ひとりの学習の進捗についても、解像度が上がったと言います。
 「従来は学習進度は生徒自身にしかわからなかったので、教員による指導も各自の裁量に任されていました。ところが、高知家まなびばこにあらゆる情報が一元化されるので、教員は、生徒や保護者との面談時に詳細な資料としても活用できるようになり、特に生徒に対しては、『毎日コツコツとデジタルドリルに頑張って取り組んでいた成果が模試の結果に反映されている』といったように、日頃の取組と成果を関連付けて伝えられるようになりました。生徒を具体的に励まし、やる気を高めることにもつながっていると思います。」(岡﨑先生)

高知家まなびばこのダッシュボードイメージ 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

5)スタディ・ログで「気づきのチャンス」が増え、学習への意欲が向上

 さらに、「生徒にとっても大きなメリットがある」と岡﨑先生は感じています。
 「これまでは、テストを受けても『点数を見たらそれで終わり』という生徒が大半でした。一方で、定期的にダッシュボードで成績の推移や日頃の取組内容が可視化されると、自分がやってきたことを振り返ることができるので、学校で週に1回ダッシュボードを見る機会を設けるだけでも気づきのチャンスが増えます。例えばダッシュボード上で、前期の中間テストでは数学が50点だったという結果を目にすると、『次は数学をもっと頑張らなければ』というように、自分の課題が何かを把握し、学習への意欲を掻き立てるきっかけが得られるのです。」
 武市氏は「スタディ・ログを『生徒の振り返りの機会』にしたことが、高知丸の内高等学校における生徒の学び方改革につながったのではないか」と評価します。
 「基礎学力が定着していない生徒に対して、どのようにフォローアップしていくかがこれまでの大きな課題でした。いろいろな試みを行うものの、どれも一過性に終わり、継続的に学力を伸ばしていくには至りませんでしたが、スタディ・ログは画期的でしたね。いつでも振り返りができ、自分がわからない部分に気づけば、その部分を復習できるため無駄がない。だから生徒も『やってみよう』という気持ちになれるのだと思います。」
 一方で、生徒自身が振り返りから学習意欲が湧いても、学習を進めていく上では、やはり基礎学力が定着していないと、またすぐにつまずいてしまいます。そこで、高知丸の内高等学校では、「放課後勉強会」を開催し、近隣の大学生に生徒の学習支援ボランティアを依頼しました。サポートの必要な生徒が大学生と一緒に問題を解き、アドバイスをもらいながら取り組める体制をつくっています。
 「スタディ・ログは、学習時間だけでなく、何を学習して、どのくらい理解できたかを把握できます。生徒がスタディ・ログをもとに自己分析して、何が足りないか気づき、必要に応じて大学生からアドバイスをもらいながら主体的に取り組めれば、まだまだ伸びていくはずです。」(岡﨑先生)

スタディ・ログを確認する生徒の様子 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

6)高校だけでなく、小中学校とスタディ・ログを連携…今後の展開

 武市氏は、「このような生徒の基礎学力を育み、定着させる取組は、小・中学校の段階から取り組む必要がある」と考えています。
 「最も大事なのは、自分なりの学習の進め方を身に付け、日常の生活の中に学習時間を組み込むといった学習習慣を身に付けることです。それは間違いなく早い方がいいと思うのです。だからこそ、そのような学習習慣がまだ身に付いていない生徒にどうやって習慣付けさせるかは、高校以前からのアプローチが必要だと考えています。」(武市氏)
 今後の展開について、武市氏は、次のように抱負を語ります。
 「高知丸の内高等学校の事例をモデルケースにしつつ、成績が伸びる効果的な使い方や活用方法を資料にまとめて、他地域にも横展開していきたい。教員はスタディ・ログを踏まえて、教員間で情報共有のきっかけにしたり、生徒への指導改善に活かしたりしてもらえればと思っています。」
 一方で、学習データや校務系データは児童生徒の個人情報であり、教育データの利活用においては、その取扱いに十分な対策をとる必要があります。個人情報保護法が2023年4月から改正されたことにより、従来は自治体ごとの法律、条例によって運用されていた個人情報の扱いが同一の法律で取り扱われることとなりました。いままでと取り扱いが変わることから、より一層の適正な取扱いやプライバシー保護への対応が必要です。情報漏洩や改ざんなどを防ぐため、細心の注意を払いながらも、教育データをさらにどう活用していくか。高知県での「教員の働き方」と「生徒の学び」の一層の改革に期待が高まります。

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※この記事は、令和5年度「学びと社会の連携促進事業「未来の教室」(学びの場)創出事業」で作成した、「未来の教室」通信を全文転載しているものです。「未来の教室」通信の過去の記事をご覧になりたい方におかれましては、下記のボタンからご覧ください。また、「未来の教室」通信メルマガのご登録もぜひお願いいたします。

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《未来の教室(経済産業省)》

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