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事例共有と連携のハブ「教育DXストーリー」でベネッセが目指す学びの深化

 ベネッセコーポレーションは2022年度末に、オウンドメディア「ミライシード ファンサイト」にて新コンテンツ「教育DXストーリー」をスタートした。教育DXに向けた自治体や小中学校の取組み事例を紹介している。その背景と狙いについて、同社学校カンパニー 小中学校事業本部 齋藤素子氏に話を聞いた。

事例 ICT活用
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「教育DXストーリー」では具体的なエピソードを交え、全国の学校や自治体の実践事例を紹介している
  • 「教育DXストーリー」では具体的なエピソードを交え、全国の学校や自治体の実践事例を紹介している
  • 学校、教育委員会、ICTサポータの三人四脚で子供たちの力を「見える化」する京都府宇治市立菟道第二小学校
  • 「教育DXストーリー」では、教育DXを進める学校、自治体の取組みを紹介している
  • 自由進度学習「マイプラン学習」を実現している加賀市立庄小学校
  • 先生方のコメントからは、子供たちの学びを良くしたいという熱意が伝わってくる

 ベネッセコーポレーションは2022年度末に、オウンドメディア「ミライシード ファンサイト」にて新コンテンツ「教育DXストーリー」をスタートした。教育DXに向けた自治体や小中学校の取組みの事例を紹介している。その背景と狙いについて、同社学校カンパニー 小中学校事業本部 齋藤素子氏に話を聞いた。

成功事例の共有で、ICT活用を促進

 「教育DXストーリー」では、教育DXを進める学校、自治体の取組みの事例を数多く紹介している。その起点となっているのが、「個別最適な学びの支援」「協働的な学びの支援」「教育効果の可視化」が1つのソフトで完結できるオールインワンソフト「ミライシード」。公教育の現場にイノベーションを起こすツールとして注目されている。ベネッセでは「ミライシード」をはじめとするサービスだけでなく、全国にICTサポータを派遣し、教材づくりから授業づくり、校内研修の支援まで、ICT活用に向けたフォローアップを行っている。

 ミライシードがリリースされた2014年当時は、ICTの導入は一部の先進校に限られていた。しかし、2019年末に文部科学省がGIGAスクール構想を発表したことを受け、この数年で公立の小中学校でも1人1台端末が実現している。この流れの中で、ミライシードを導入する学校は全国の小中学校9,000校に達している(2024年3月現在)。導入校の増加に比例して、児童生徒の学びに深化を起こす優れた実践事例も出始めている。「教育DXストーリー」を通じてこうした好例をオンラインで発信することで、全国的でICT活用が促進されることが期待される。

「教育DXストーリー」では、教育DXを進める学校、自治体の取組みを紹介している

「ミライシードAWARD」をきっかけに、事例紹介の意義を実感

 齋藤氏によると、同社のコンテンツとして「教育DXストーリー」を始めるにいたった背景には、2022年度から実施している同社主催の「ミライシードAWARD」の存在があるという。

 本アワードは、ミライシードを使った小中学校の優れた取組みを表彰するコンテストであり、全国各地の学校におけるICT活用の実践にスポットライトを当てることで、学校間の知見の共有を促進することを目的としている。

 ミライシードAWARDは、ベネッセ社内の審査会および、有識者や教育関係者を含む7名の外部審査員によって、「チャレンジ」「インパクト」「再現性」の3つの観点で選考され、受賞者が決まる。齋藤氏は、「選考を通じて、私たちが予想していた以上に熱心に、積極的にミライシードを活用して学習改革に取り組んでいる学校や、深い実践をされている先生がいらっしゃることを知り、感銘を受けている」と言う。本アワードには地方都市の小さな学校からの応募も少なくない。「成果を出している素晴らしい事例があるのに、埋もれさせるのはもったいない。全国の学校、教育委員会をはじめ、教育に携わる多くの方々に広く紹介することは、意義があるのではないか」。齋藤氏をはじめとする同社社員のそんな思いが、「教育DXストーリー」の立ち上げにつながった。

 当初はミライシードAWARDの受賞校を中心に紹介してきたが、現在は本アワードへの応募や受賞の有無にはこだわっていない。教育委員会やICTサポータからの推薦をもとにベネッセ社員らが学校に出向き、先生たちに直接ヒアリングし、その挑戦や奮闘、成果を記事で紹介しているという。

菟道第二小学校:学校、教育委員会、ICTサポータが三位一体で取り組む

 「教育DXストーリー」にて紹介されている菟道(とどう)第二小学校(京都府宇治市)では、学校、宇治市教育委員会、ICTサポータが三位一体となり子供たちの課題解決、学校改革に取り組んでいる。

学校、教育委員会、ICTサポータの三人四脚で子供たちの力を「見える化」する宇治市立菟道第二小学校

 同校の教育目標は「進んで学び、自主的・主体的に生きぬく児童の育成」であり、校長の俣野先生は、ICTを「この目標を達成するために欠かせない存在」だと捉えている。「最初はとにかく使ってみることからでしたね。ICTは、得意な人はどんどん使いますが、苦手な人はどうしても尻込みします。そのままでは、クラス間で活用の差が開いてしまう。ですので、その差をいかに埋めていくかが課題だと考えました」。

 クラス間の差を埋める試みとして、俣野校長先生は「たとえば若手教員とベテラン教員が一緒になって教材研究をする。ちょっとした時間に、ICTについて話す。こうした『みんなで活用する』雰囲気づくりを通じて、より多くの教員にICTに慣れてもらいました」と語っている。

 宇治市教育委員会の佐竹指導主事によると、GIGAが始まった当初、教育委員会ではどうすればICTを効果的に活用できるかを模索していた。そのため、「市の教育研究員でもあった同校の奥田先生に、R-PDCA(調査R→計画P→実行D→点検・評価C→修正Aという指導改善のサイクル)を活用した授業づくりのロールモデルをつくってもらい、成果を検証し、市内の他校へも活用を促していくつもりでした」(佐竹指導主事)。

 奥田先生は佐竹指導主事の紹介で、ICTを取り入れた中学校の授業を見学に行くなど、教育委員会からの情報やサポートに刺激を受けながら、同校での授業に反映させている。

 同校で活用したのは、ミライシードのツールのひとつであるR-PDCAだ。R-PDCAを使うことで、授業後に「アクティブ・ラーニング行動調査」というアンケートを配信し、子供の能力と課題を「見える化」することができる。その結果をもとに、奥田先生が伸ばしたい力として、「資料活用・引用力」「学習改善力」「目標決定力」を設定すると、それに適した指導デザインやワークシートが自動で提案され、授業に生かすことができたという。

 ベネッセのICTサポータも、ICTの使いどころのアドバイス、タブレットで活用できるフォーマット提供などの支援を行う。奥田先生が、それらを授業づくりに活用したところ、1年後には設定したすべての項目で子供たちの能力の伸びが見られたそうだ。

 この成果に着目したICTサポータが、「数字として成果が出ている」とベネッセに報告。ベネッセ担当者が同校を視察し、「ぜひ『教育DXストーリーで紹介したい』と掲載に至った。自治体と学校、ICTサポータの連携のあり方は、他の自治体や学校にも参考になるだろう。

庄小学校:全校で自由進度学習「マイプラン学習」を実施

 同じくICTサポータからの推薦がきっかけで「教育DXストーリー」での紹介につながったのが庄小学校(石川県加賀市)だ。加賀市は、学校教育ビジョンとして「BE THE PLAYER」を掲げ、子供たちが自ら考え、動き、社会を変えるプレイヤーになることの実現を掲げている。また、未来のデジタル人材の育成にも力を入れており、全国に先駆けて2017年度から全小中学校でプログラミングの授業を行っている。

自由進度学習「マイプラン学習」実現している加賀市立庄小学校

 庄小学校でも、自律した学びづくりに励んできており、2023年度からは、1年生から6年生まで全学年で、子供たちが自分で学習計画を立て、自分のペースで学習を進める自由進度学習「マイプラン学習」の時間を取っている。

 ICTは自由進度学習を後押しする存在となっている。子供たちはまず、自分だけの学習内容や学習計画を設定する。そのうえで、ミライシードに含まれる「学習カード」機能を使って学習を進める。さらに、一定のタイミングで「チェック問題」に取り組み、解答を「提出BOX」に提出。先生はその解答にリアクションしながら、子供たちの学習状況や進度を把握する。GIGA推進リーダーの中谷先生のお気に入りは「カメラ機能」だ。教材を動画にして提供するほか、子供たちにも、解答を動画で提出してもらうこともあるという。

 マイプラン学習では、友達に教えてもらいながら理解する子、ドリルをひたすら解く子など、それぞれ自分に合った方法で学習する。学ぶ場所も自由だ。たとえば、算数の時間に、理科室で図形を切り貼りして三角形の重なりを確認する子もいる。

 低学年で自由進度学習を導入するのはきわめて珍しい例だが、研究主任の永井先生が、「正直、最初は本当にうまくいくか不安に感じている教員もいました。ただ、いざやってみたら、子供たちは教員の想像を超えて、楽しみながら、自由な学びへと真剣に向かってくれました」と語るように、前例の少ない試みもうまくいっている。不安を抱えながらチャレンジする先生たちの背中を押したのは、野田校長先生だ。先生方には「失敗しても大丈夫だし、そもそも完璧を求める必要はない。とにかくやってみようよ」と、促したそうだ。

 マイプラン学習を経験した子供たちの変化は著しく、公開授業で前向きに授業に取り組むわが子を見て、涙ぐむ保護者もいたという。野田校長先生は、「マイプラン学習を通じて児童はもちろん、保護者の方々の価値観も変わりました。そして、私たち教員も変わりました。子供が自律して学ぶ姿を見て、私たちは自信と誇りを感じています」と語る。先生たちのチャレンジと、それに応える子供たちを応援してきた野田校長先生は、同校の取組みを「ミライシードAWARD2023」に応募。最優秀賞を受賞した。

先生方のコメントからは、子供たちの学びを良くしたいという熱意が伝わってくる

他校のチャレンジが刺激となり、連鎖効果が生まれる

 文部科学省がGIGAスクール構想を発表して3年余りが経過した。齋藤氏の実感として、「『とりあえずICTを取り入れてみる』というフェーズを経て、ここ数年は『ICT活用を成果につなげる』というフェーズに入っている」という。しかし現場の先生からは、「どうすればICTをより良く授業に取り込めるのか、効果につなげられるのか、わからない」という戸惑いの声があるのも事実だ。一方で、ミライシードを導入している学校の中には、上記2校のように、先生たちの熱意ある働きかけによって大きな成果をあげている学校もある。

 齋藤氏は、「教育DXストーリーが他の学校や先生たちに影響を与えることがあると感じています。具体的な成功事例を紹介することで、地方都市から首都圏までの先生たちが興味をもち、実際に教育DXストーリーに掲載された学校を訪れ、自らの取組みの参考にしています。さらに、他校でのICT実践事例に触発された先生たちからは、『子供たちの成長を促進するためにICTを活用し、ミライシードAWARDに挑戦したい』という好意的な反応があり、良い連鎖が始まっています」と語る。


 「これからも、子供たちの成長のために奮闘している全国各地の先生たちに光を当て、新しい教育、優れた教育を広めるお手伝いしていきたい」というのが、齋藤氏の抱負だ。「教育DXストーリー」が、オンラインを介した情報共有と連携のハブとなり、日本のICT教育を盛り上げる一助となるのではないだろうか。

全国のICT実践事例集「教育DXストーリー」をみる
《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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