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【EDIX2022】これからの学びに欠かせない「4つの原則」とは…Apple ドミニク・リヒティ氏

 2022年5月12日、第13回学校・教育総合展(EDIX)東京2日目に開催されたセミナー「これからの学びとApple」に、Apple本社にてワールドワイド教育ストラテジー部門ディレクターを務めるドミニク・リヒティ氏が登壇した。

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Apple ワールドワイド教育ストラテジー部門ディレクター ドミニク・リヒティ氏
  • Apple ワールドワイド教育ストラテジー部門ディレクター ドミニク・リヒティ氏
  • セミナー「これからの学びとApple」
  • 「2025年に求められるスキル」
  • iPadのAR機能で現実世界と学びがつながる
  • Appleが提供するアクセシビリティ機能
 2022年5月12日、第13回学校・教育総合展(EDIX)東京2日目に開催されたセミナー「これからの学びとApple」に、Apple本社にてワールドワイド教育ストラテジー部門ディレクターを務めるドミニク・リヒティ氏が登壇した。

 米テクノロジー企業であるAppleは、教育の分野において世界中の学習者をテクノロジーで支援することに力を入れている。日本のGIGAスクール構想による1人1台端末の整備が進められる中、Appleが提供するiPadが採用されるケースも多い。講演では、教育分野において掲げる4つの「デザイン原則」を中心に、同社が取り組んでいる内容が紹介された。

セミナー「これからの学びとApple」
セミナー「これからの学びとApple」

テクノロジーを中心に「つながり、変化する」社会



 Appleは「素晴らしい製品を作り、人々の暮らしを豊かにすること」をビジョンに掲げており、iPhoneやMacBookといった製品を中心に、人々の生活に密着し大きな影響を与えるテクノロジーを生み出している。テクノロジーを中心として人々の生き方、働き方、学び方が大きく変わりゆくなか、リヒティ氏は「Appleは『テクノロジーとリベラルアーツの交差点』にいる」と表現。これまで培ってきた技術を教育の分野にも応用しているとアピールした。

 テクノロジーの進化に伴い、社会はこれまでに大きく分けて3段階の進化を遂げてきた。「工業社会」の段階では、テクノロジー(機械)が生産性を向上させる役割を担ったことで、人間は労働力として活躍できた。「情報社会」になると、テクノロジー(データ・情報)が仕事の効率性を上げた一方で人間が外に追いやられ、テクノロジーに順応することを強いられた。そして現在、「人間中心社会」とよばれる時代への転換期を迎えている。人間がテクノロジーを利用することで情報に意味を見出し、テクノロジーはあくまで人間の活動を補助する役割である。

 リヒティ氏は、この人間中心の社会においてAppleが提供するiPhoneやAR(拡張現実)、人工知能といったテクノロジーが人々の生活と学びを支えていると強調。さらに、テクノロジーによるルーチンワークの自動化によって、人間が得意とする批判的思考や分析、クリエイティビティといった分野に注力することができるようになると述べた。

「2025年に求められるスキル」
「2025年に求められるスキル」

Appleが提唱する4つの「デザイン原則」



 こういった社会の変化の中、社会で活躍するためのスキルを子供たちが身に付けるために、学びには以下の4つの「デザイン原則」が不可欠だとリヒティ氏は言う。

つなげる



 1つ目の原則「つなげる(connected)」学習とは、デバイスやインターネットにアクセスすることから始まるが、それだけに留まらない。「いつでもどこでも、すべての生徒が優れた教材に公正にアクセスできる」ことこそが「つながっている」状態であり、これがAppleの掲げるビジョンだ。リヒティ氏は、生徒と先生が質の高いコンテンツにアクセスできるようにすること、その関わり方の質を確保することも目標であると述べた。

 質の高いコンテンツを実現するためには、単に紙の教科書をPDF等にデジタル化するということだけではなく、幅広いアプリケーションの中から有用なものを使うことも重要である。Appleは、2次元のコンテンツに留まらず、ARを活用した3次元のコンテンツにも力を入れている。たとえばiPadに搭載されているAR機能を活用することで、生徒が数学的視点で現実世界に目を向けることができる。自身が用意した3Dの図形を現実世界に投影することでその見え方を体験する、といった具合だ。

iPadのAR機能で現実世界と学びがつながる
iPadのAR機能で現実世界と学びがつながる

協働



 2つ目は「協働(collaborative)」学習だ。ドキュメントを共有し、オンラインで同時に取り組むことはもちろんのこと、ここで「協働」という言葉が真に意味していることは、他者に対する信頼と尊敬の念を抱きながら、各々がスキルと情熱を発揮して共通の目標に向かって取り組むことだ。

 大地震からの復興の柱の1つとして「教育」を掲げている熊本市では、GIGAスクール構想における1人1台端末としてiPadを小中学校に配備し、児童・生徒を中心とした協働学習に重きを置いている。ある小学校では、児童をグループに分け、歴史上の人物について調べてビデオを制作し発表するという課題を用意。グループのひとりひとりが、演者や作家、監督といった役割を担い、課題に取り組んだ。この学習は、教科の理解が深まるだけでなく、リーダーシップや社会的影響力といったスキルを磨く機会となっている。

クリエイティビティ



 3つ目は「クリエイティビティ」だ。「学習におけるクリエイティビティとは、学習と探究を通じて潜在能力を開放し、問題解決や課題への取組み、人とのつながり、製品づくりの新しい方法を想像する能力であると定義している」とリヒティ氏は言う。

 クリエイティビティを養うためには図工や美術等の特定の教科だけではなく、どの教科においても試行錯誤を繰り返すことが重要だ。リヒティ氏が次に例にあげたのは、三重県松阪市のある中学校。配布されたiPadに生徒が夢中になっているのを見た数学の先生は、そのクリエイティビティと興奮を数学の授業に生かせないかと考えた。公式の暗記はできていても、その応用力が不足していると感じていた先生は、「問題の解き方をクラスメイトに説明するビデオを制作する」という課題を出した。

 この課題ではまず、他の生徒に説明するために解き方の手順を掘り下げ試行錯誤することで、数学的思考を養うことができる。それに加え、重要なポイントを強調するためにエフェクトを活用する等、生徒は先生の指示を受けずともiPadで直感的にビデオ制作を行うことができたという。数学の理解を深めると同時に、表現力とデジタルリテラシーを身に付けることができる課題となった

パーソナル



 4つ目のデザイン原則「パーソナル」は、学習者それぞれが自分で学びの道筋をデザインすることである。リヒティ氏によれば、現在多くの学校で行われているアダプティブ・ラーニングは、生徒ごとに学び方をカスタマイズすることによって同じ成果を得るものだ。しかし、Appleが目指すのは、生徒は学習の主導権を握ってそれぞれの学習成果を得る、そして教師はそのメンターやガイドとしてサポートするというかたちだ。

 ドイツのフリースクールでは、教師は「学習コーチ(Learning Coach)」、生徒は「学習パートナー(Learning Partner)」とよばれている。学習コーチは、生徒ひとりひとりの目標設定と学習プロセスの構築サポートと、キャリア開発におけるメンターの役割を果たしている。現代では、社会人は職場での個人目標を設定してキャリアを歩んでいくことが求められており、その能力を学校で養おうというわけだ。

 またAppleでは、どんな人でも自立して夢を追うことができるよう、障害のある学習者のサポートにも力を入れている。リヒティ氏は、現在世界で10億人以上が何らかの障害をもっており、1クラス25人とすると、クラスの3、4人が何らかの障害をもっていることになると紹介したうえで、ある学習者の例をあげた。

 聴覚に障害をもっているある生徒は、人工内耳とiPadをBluetooth接続することで、他のクラスメイトと同じように外国語の学習ができている。これはAppleが多くの補聴器メーカーと協力して開発を行った成果だという。リヒティ氏は、「簡単にパーソナライズできるテクノロジーは、多様な学習者が生涯にわたって活躍し続ける機会を提供する。そしてこれは、競争を均等にするのに役立つ」と述べた。

Appleが提供するアクセシビリティ機能
Appleが提供するアクセシビリティ機能

 以上が、Appleが提唱する4つの「デザイン原則」だ。リヒティ氏は「つながり、協働的で、クリエイティブで、パーソナルな学習に焦点をを当てることで、すべての学習者に力を与え、明日への準備をさせることができる」と述べ、講演を終えた。

 Appleでは現場の先生やIT管理者へ向け、同社の製品やサービスを活用できるよう、Webページにて「GIGAスクール構想をAppleと」を公開している。iPad活用のアイデアや授業ガイド、事例等をビデオと共に参照することが可能だ。「iPadが配布されたがどう活用したら良いかわからない」という先生の助けとなるだろう。

 世界のテクノロジーの発展をリードしてきたAppleが、その独特の哲学を教育分野でも発揮していることがわかる講演だった。4つの「デザイン原則」に基づいたAppleの教育支援に共感する教育者にとって、iPadをはじめとする同社製品が大きな手助けとなるに違いない。
《多賀秀明》

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