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【特別支援学級】子供たちに伝わりやすい説明、話し方とは?

 特別支援学級の子供たちに寄り添うためには、どんなことが大切なのか?長年小学校の特別支援学級で支援員として勤務してきた ももあいり氏に、子供たちに伝わりやすい話し方、説明・声かけの方法を聞いた。

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【特別支援学級】子供たちに伝わりやすい説明、話し方とは?
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 特別支援学級の子供たちに寄り添うためには、どんなことが大切なのか? 長年小学校の特別支援学級で支援員として勤務してきた ももあいり氏に、日々子供たちと接する中で心がけていること、接し方の工夫等を聞いた。今回は、子供たちに伝わりやすい話し方、説明・声かけの方法を紹介する。

話す前に、まず、子供たちと目を合わせよう



 前回、子供たちに話すときのポイントを4つあげました。言葉(指示)はひとつずつ・ゆっくりと・説明は短めに・はっきりと聞き取りやすい声のトーンで話す、の4つです。話す前には、子供たちと目が合っているかを確認します。目が合うことは、子供の意識が先生に向いている、ということなので、まずは静かに待ってみましょう。

 時間がかかりそうなら、「先生と目が合っているかな?」と言いながら、ひとりひとりとゆっくり視線を合わせていき、気がそれている子がいたら、名前を呼ぶと気付きます。毎日、朝の会や授業の初めと終わりに繰り返すと、少しずつみんなと目が合うようになります。慣れてくると、先生が前に出るだけでハッと気付いて姿勢を正し、静かに座れる子が増えてくるでしょう。

生活体験が少ない子供たち…できないのではなく、知らないことが多い



 特別支援学級の子供たちの中には、移動の際に自家用車を使い、路線バス・電車・タクシーなどに乗る機会の少ない子もいます。公共交通機関の利用体験が少ないことは、そこでのマナーを知らない、ということになります。

 また、特別支援学級の子に限ったことではないかもしれませんが、雑巾や布巾も、上手に洗って絞ることができない子が大半です。机の拭き方も雑で、端だけ拭く、真ん中だけ拭くという子も珍しくありません。絞るときの手の使い方、力の入れ方などがわからず、拭いたはずの机が濡れていることもあります。手を取って、「こういうふうにやるのよ」と教えるとできる子が多く、できないのではなく、やり方を知らなかっただけなのです。

 その他、使った食器を洗う、脱いだものを畳むなど、自分の身の回りのことができない子も多くいます。時間をかけて丁寧に説明し、一緒にやれば子供が1人でできるようになります。大人が代わりにやってしまうのではなく、子供の成長のチャンスと捉え、生活体験を積ませることが大事です。生活体験が少ないことは、イメージできる幅が狭くなるので、伝わる言葉も少なくなりがちです。

子供たちに伝わりやすい言葉や表現を使う



 よく読み聞かせをしてもらっている子はイメージできる幅が広く、図鑑が好きな子は物知りです。ゲームやパソコン遊びを通して、実際には見ていなくても道具や場面を想像できる子もいます。必ずしも生活体験と言葉が一致するわけではありませんが、子供たちに伝わりやすく話すには、生活体験に基づいた、イメージしやすい言葉や表現を使うのがコツです。

 たとえば、「静かに歩く」ことを伝えたいときには、忍者の本を読み聞かせします。その後、「忍者ってなんだっけ?」「どうやって歩いてた?」などと子供たちに聞き、「そーっと歩いてた」「見つからないようにしてた」「こんなふうに…」と教えてくれたとします。これで子供たちは、「静かに歩く=忍者のようにそーっと歩く」とイメージできるようになるでしょう。

 同じように「静かに運ぶ」ことを伝えたいときは、たとえばプリンの絵を黒板に描いたり、プリンの絵カードを用いたりして、プリンがどんなものかを聞き、「プリンが崩れないように運ぶにはどうしたら良いかな?」と子供たちに質問して考える時間を取ります。忍者のようにそーっと、という答えが出るかもしれません。このようなやり取りを通して、子供たちには「静かに運ぶ」イメージができ、給食の時間にはスープをこぼさないよう、気を付けて運べるようになるでしょう。

 プリンではなく、水を入れた器を使い、実際に運んでみるとよりわかりやすくなります。こぼしたり、ふざけたりする子もいるでしょうから、そういうことが起きても対応できる余裕があるなら、実物を使ってみましょう。絵本や絵カードの他、時間の説明にはタイマーを使うのも有効です。タイマーはアナログのほうが、残り時間が見えるのでわかりやすいでしょう。

注意するときは、禁止ではなく促す言い方に



 子供たちはよく廊下を走ります。「ぶつかると危ない」など、何度注意してもなかなか通じないこともあります。

 注意のコツは、してほしい形で言うことです。走ってはいけないところを走る子に対して、「走るな!」と言うと、なぜかもっと走ってしまうことがあります。走らずに歩いて欲しければ、「歩いて!」とか「歩くよ!」と声を掛けてみてください。

 また、支援級には水遊びが好きな子が多く、手を洗う際に水の出し方が激しいこともよくあります。「お水を出しすぎだよ」と言っても抽象的なので伝わりにくいですが、「鉛筆くらいの太さにしようか」と具体的に言うと、水を出す量の感覚がわかって、調整できるようになります。声掛けは「しないで」という否定形よりも「するよ」「しようか」「やってみよう」という促す形のほうが響きやすいです。

子供たちの成長は1年くらいの長いスパンで見る



 なかなか定着しにくいと感じることは多いでしょうが、辛抱強くしつこく繰り返すことで少しずつ身に付き、確実に成長していきます。昨日、今日の変化ではなく、1年くらいの長いスパンで子供の成長を見てみると、その違いに気付きやすいです。たとえば運動会では、去年は怖がって在籍級に並べなかった子が今年は並べた、ダンスなんてやりたくない! と泣いていた子が今は輪の中に入っている、など、個々の成長が見られるでしょう。

 先生方は毎日とても大変だろうとお察ししますが、どうぞ、子供たちの小さな成長を探して、楽しんでください。応援しています。

もも あいり


 大学卒業後、教育系出版社で約5年間勤務し、進路指導教材や心理学に関する書籍の企画編集を担当。小学校の特別支援学級で支援者として複数の学校に計12年間勤務。保育園、子育てひろばでの勤務経験も含めると、約30年間教育に携わっている。子育て支援員、子育てアドバイザー資格取得。著書は、「魔法のことばかけで子供がゴキゲン!~子育てを楽しむための悩むママへおくる本~(Kindle)」等。
《ももあいり》

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